平助の母親
□115.
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「それにしても、ほぉんとにキレイねぇ〜」
各机にそれぞれ座ってみんなが楽しく食べて飲んで…、
永倉さんが楽しく場を盛り上げている様子は会社の忘年会そのもので、そこにわたし達家族も参加させてもらっている。
一見そんな感じなのに、
でもやっぱり白い壁の空いたスペースにプロジェクターで映し出される映像や、壁を背にみなさんと対面するように座らされたわたしととしくんの席が、会場の雰囲気は別として披露宴ということを忘れさせてはくれないみたい…。
で、
さっきの呟きは言わずもがな、映し出された結婚式の映像をうっとりと見つめて出たおのぶさんの呟き。
「今の結婚式って、こんな素敵な演出したり、映像もすぐに作ってくれるのね〜。羨ましぃわぁ〜!」
カウンターに両肘をついてひたすら「いぃわぁー!羨ましぃわぁ〜!」と言うおのぶさんに、彦五郎さんも「なら俺たちもも一遍挙げるか!」とにかぁっと腰に手を当てて言うけれど、「あんたとやってもこうはならない」とバッサリ断られ会場のみんなが大笑いで盛り上がっていた。
「はぁ〜、……でもねおのぶさん、式もまぁ名前ちゃんがかわいくて良かったけれど、このあとのフリータイムもなかなかの見所だったんだよ?」
おのぶさんの立つカウンターの正面に座る沖田くんがなんかまたあやしげな雲行き発言をするんじゃないかって内心ヒヤヒヤ。
でもカウンターから離れた場所に座らされたわたしにはどうにも止めようがなくて、一体全体どうしたものか…。
そんなわたしの焦りに比例して横に座るとしくんはなんだか小刻みに震えているようにも見える…。
「あ、あー、としくん?あのさ、ほらほら、あの、ちょっとタバコでもどう?ほら、こんな隅っこに座らされて窮屈じゃない?ちょっと体伸ばしてきたら?」
としくんの腕をトントンたたいて提案してみれば、眉間にシワを寄せた顔をこちらに向ける。
「え……?」
ストレス爆発寸前のとしくんは、その気迫のままわたしの腕を掴むとガタンと立ち上がる。
「と…!としくんっ!?」
掴んだ手をそのまま引っ張られるように高砂テーブルから引きずり出されてずんずん扉へと進んで行くとしくんについていくしかない。
「ぉおおおいおい、どこ行くんだよ土方さん!?」
扉の近くの席に座っていた原田さんが慌てて立ち上がって扉に手をかけようとするとしくんを遮って立ちはだかる。
「どこだっていぃだろう。外の空気吸ってくんだよ。」
「いやだからって主役二人がいっぺんにいなっくなってどぉすんだよ」
「そぉだよ!それにそんなカッコで出て行ったら寒いって!」
原田さんに続いて平助までも立ち上がって止めに入る。
「沖田の声が耳障りなのもわかるが、そんなんいちいち反応してたらヤツの思うツボだぜ?」
「ほら座って座って!」ととしくんの肩に手を置いてさっきまで自分が座っていた椅子にとしくんを座らせて肩に置いた手をポンポンとする。
「ほら、かぁちゃんもココ座って!」
そう言ってわたしを座らせると、さっきまでわたしたちが座っていた高砂席にイスを取りに行く平助。
「あいつもあぁやって俺ら大人の付き合いに上手く付き合ってんだぜ?見習わなきゃなんねぇんじゃねぇの?」
平助の背中を親指で指してウインクする原田さんの言葉に視線をその先に向けると、はぁっとため息をついてやっと表情を柔らかくしてくれた。
「そうだな…。」
そう言って肩の力を抜いたとしくんは、イスの背もたれに背中を預けてフッと眉毛を下げて苦笑い。
「まぁまぁ飲もうぜ!飲めば小さいことなんて気になんねぇって!」
「いや、帰り車だし、」
多分今まで原田さんが使ってたと思われるグラスに生ビールをどぷどぷと注いで勧める永倉さんが差し出すグラスをサッと横にいる原田さんの前に移動させる。
「んだよ土方さん、ちょっとくらい飲めってよぉ〜!帰りの運転なら名前ちゃんに任せりゃいーじゃねぇか〜」
「いえあの、わたしマニュアル運転できなくて…、すみません」
「それに土方さんはお酒飲めないんですよ」
「!!」
「お…、沖田くん……」
わざわざイスまで持参してわたしの隣を陣取って会話に入り込む沖田くん。
ニコニコ笑ってるけど、次に何言い出すかわからない分、またもやハラハラドキドキ…。
「んだよお前〜!あっちで近藤さんと仲良く飲んでろよな〜!」
ビール瓶片手にしっしと追い払うように言う永倉さん。
ちょっと酔ってる?
「いいじゃないですか、近藤さんはあっちでちょっと大人の話してるから、気を利かせてこっちにきたんです。いいよね?名前ちゃん?」
カウンター席でおのぶさんご夫婦、松平社長、山南部長に井上部長を含めたグループで会話する背中を肩越しに指差すけど、その中には笑顔の千鶴ちゃんも交じってて、別に特別難しい大人の話をしているようには思えない。
ね?と首をこてんと傾げる沖田くんに、お願いだからおとなしくしててくださいと念力を送る。
沖田くんが入ってきたことで若干定員オーバー気味なこのテーブル。
そこに平助もイスを二つ持ってきてくれて、さらに沖田くんについてはじめくんもちょこんととしくんのやや後ろに席を引いて座る。
沖田くんがいることで、下手な話は振れないと、そこにいる全員に緊張が走るのがわかる…。
「の、飲めねぇなら仕方ねぇな!ほんじゃぁよ土方さん!今日はたらふく食ってパァアっと楽しもうぜ!?」
「だなだな!ほら土方さん!コレ、うまいぜ〜!ほら、苗字も!」
永倉さんと原田さんが必死に場を盛り上げてくれてるのが痛いほどよくわかる。
二人の努力を無駄にしてはいけないと、わたしもいつも以上に笑顔に力が入る。
「ん!ほんと美味しぃ!としくん、美味しいよ!」
ベタな盛り上げ方にちょっと引きつってたとしくんだったけど、このまま黙っててもどうせ何か言われるだろうと判断したのか、思いっきり開き直ったのか、わたしの右手首をぐいっと掴んでお箸の先につまんでいたタコの唐揚げをパクッと食べた。
「っ!?」
「うん…、まぁうまいな」
何でもない表情でモグモグと口を動かして食べるとしくんを前に、みんなは目を丸くしたり点にしたりで…。
「なっ…、なんだよなんだよ!見せつけてくれるじゃねぇかチクショー!」
「泣くなよ新八、新婚なんだからしょーがねぇだろ」
「だからってよー!だからってよー!!名前ちゃん!俺にもあ〜んって食わせてくれ!一度でいいから俺にも夢を見させてくれぇっ!」
騒ぎ出した永倉さんに迫られて、仕方ないから食べさせてあげようとお箸をお料理に伸ばしたところで、横からとしくんにサッと奪われ、としくんの手によってお料理を口に運ばれる永倉さん。
条件反射で頬張っちゃってるけど…。
「なんで俺には女ができねぇんだよぉお佐々木ぃっ!」
何故か離れているのに名指しで叫ばれる佐々木さん。
きっとこれからもっと酔う予定の永倉さんは他に誰の名を叫ぶのでしょう。