平助の母親

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グアムから帰国して翌日から三日間出勤すると仕事納め。

結婚式を挙げる前と変わらず、ちゃんと苗字って呼んでくれる職場の皆さんとショールームの大掃除を終えると、今日は18時でショールームを閉めて忘年会です。

忘年会と言っても、ただの忘年会じゃなく、わたしととしくんの披露宴というか二次会みたいなのも兼ねてるらしく、会場はとしくんのお姉さん夫婦のお店、『居酒屋さとう』。




「あの〜、ですね?やっぱり今回は普通の忘年会って事には…、なりませんかねぇ…?」



会社で手配したマイクロバスで居酒屋さとうへ向かう誠自動車のスタッフ一同。

わたしの隣に座る松平社長と山南部長に交互に顔を向けて訊ねれば、二人ともにこにこ微笑んでいる。



「何故です?あなた方のお祝いも落ち着いたらやるというお話を伺ってた事ですし、忘年会と兼ねれば会社としても飲み会代やスケジュール調整、一度で事が済み一石二鳥ではありませんか」



メガネをキラッと持ち上げて微笑む山南部長に返す言葉もなかったけれど、やっぱりそれなら会社の人達にはお祝いとか忘れて忘年会として純粋に楽しんでもらいたいと思う。

無意識に下唇がへの字の形を作っていたらしく、松平社長がぷっと噴き出して笑い出す。



「ぷっ…くくっ…、苗字さん…、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。」

「???」



への字の口のまま松平社長を見上げれば、目尻に滲んだ涙を人差し指で拭いながら微笑んでくれる。



「苗字さんも知ってると思うが、うちの社員はみんな楽しく呑めればそれでいいんだから。名目上披露宴兼忘年会と謳ってはいるけれど、そんなに気にすることはないんだよ」



そう言って自分の唇に人差し指を当てて、わたしの唇がおかしな事になってることを教えてくれる。

いろんな意味でお気遣いしてくださる松平社長に小さな声で慌てて「はぃ…」と肩を竦めて返事をすると、



「今年最後の集まりなんだから、みんなが気持ちよく楽しまないとね」



とにっこり笑ってわたしの肩にポンポンと優しく手を置いた。





そんなこんなでわたし達を乗せたバスは居酒屋さとう近くの表通りで停車してわたし達を降ろし去って行く。
住宅街の居酒屋さんなだけあって、駐車場完備とまではいかないので、お開きの時間にまた迎えにきてもらえるように手配してあるらしい。
さすが、山南部長。抜かりのないデキる男。

大通りからぞろぞろと一本裏通りに入ると、数台分停められる駐車スペースに見慣れたとしくんの車が既に停まっていて、もう家族が先に到着している事を知らせてくれる。



「こんばんはー!」



ガラリと松平社長が入り口の扉を開けると、元気の良い返事が返ってくる。



「いらっしゃいーってあらぁ〜!松平くん!久しぶりじゃないのっ!」



驚く事にとしくんのお姉さんは松平社長とも面識があるみたい。
しかも松平『くん』って……。



「よぉ〜!へースケ〜!」

「新八さん!お疲れさま!」



これから始まる宴会にウキウキわくわくの永倉さんはグアムですっかり平助と仲良くなってくれたみたいでお店に入ると一番に平助に声をかけてくれる。



「平助、こいつに新八さんだなんて、ちぃっと畏まり過ぎだぜ?新八でいいんだって」

「左之さん、」

「そうだぜそうだぜ!?男同士敬語なんて使ってちゃ、ちっとも仲良くなれないぜ?呼び捨てが難しいんだったらぱっつぁんでもいぃしよっ!」



二カッとご自慢の筋肉を平助の肩にまわして脇に抱え込む永倉さんに若干引き気味の平助だったけど、「それじゃぁしんぱっつぁんで…」と平助は平助なりにわたしの職場の人ともいい付き合いをしてくれていた。



「名前さん!おつかれさまです!」



店内の机をキレイに拭いていたのか、右手に台拭きを持った千鶴ちゃんがパタパタとわたしの元へと駆け寄ってきた。



「千鶴ちゃん!わたしもお手伝いするよ!」



コートを脱ごうと片方の腕を袖から抜きつつ言うと、「ダメです!」と強く断られてしまう。



「え…?」



体半分だけコートを脱いだなんか中途半端な格好で固まってしまうと、後ろからふわりとコートを持ち上げられ脱がされる。



「今日は俺達二人は何も手ェ出すなだとさ」

「え…」

「今日はお二人のお祝いの席なんですよ?主役にお手伝いなんてさせられません!」

「え、でも今日は会社の忘年会でもあるわけだ…し……」



わたしの主張も虚しく千鶴ちゃんは最後まで聞くこともなくカバンとコートを奥のお座敷にささっと持ってってしまった。



「………、」



ボー然と立ち竦んでその背中を目を点にして見ていると、としくんのお姉さんのご主人、彦五郎さんがカウンター越しにご機嫌な声をかけてきた。



「いやぁ〜、あの子、千鶴ちゃん、いぃねぇ〜!進んで手伝いはするわ何やらせても手際はいいわ…。うちにバイト来てくんネェかねぇ…。」



アゴをさすって満面の笑みの顔を傾けながら千鶴ちゃんにメロメロな彦五郎さん。



「何言ってんだよ彦五郎さん、千鶴は来年受験生だぜ?それでなくても部活も忙しいってのに…」

「え、ていうかその前に中学生ですよ?」



もー、二人とも中学生バイト禁止でしょーと笑って言えば「そぉいやそうだったな」なんて珍しく呑気に笑うとしくん。

いつになくリラックスしている様子のとしくんになんだか嬉しくなっていると「おぉ〜みんなもうお揃いかぁ〜!」と勢いよく開いた扉から朗らかな声と共に近藤さまがご来店。



「よぉ近藤さん、遅かったじゃねぇか」

「いやぁ〜、すまないすまない!ちょっと寄り道をしてしまってね…」



そう言って扉へ視線を向ける近藤さまに倣って同じように視線を向けたとしくんの眉間にあっという間に刻まれるとしくん特有のトレードマーク。


「近藤さん…、あんたまさか……!?」

「はぁ〜い♪仰るとおり、沖田総司です」



大きな花束を抱えた沖田くんの登場にキッと逆三角形に吊り上げた眼光を近藤さまへと投げつけるとしくん。



「やっ…、としっ!コレには…」

「近藤さん!あんたグアムでこいつのやったことわかって連れてきてんのかっ!?」

「そ、それは…、だがしかし総司だって悪気があっ」

「あんたいっつもそう言うが、こいつのやるこた全部悪意の塊じゃねぇか!」

「いやしかし…」

「しかしもカカシもねぇんだよ!あんた、こいつのやることわかって連れてきてんだったら相当だぜ!?」

「とっ…、としくん!」



あまりの勢いにさすがの近藤さまもいつもの笑顔が消えて青い顔で小さくなっていく様子につい横から口出ししてしまう。



「としくん、ほら、今日はせっかくみんなで集まってるわけだし、ね?沖田くんもこんなに大きな花束持ってきてくれて…、ほらすごくキレイだよ?」



としくんの腕にそっと手をつけてトントンとなだめるように、ゆっくりと言い聞かせてみれば、少しづつ治まってくるとしくんの鼻息にホッとしたのも束の間…。



「そうですよ〜、せっかくキレイなお花プレゼントするんですから。コレで一句詠むくらいの余興、お願いしますよ♪」



にっこり笑って花束を差し出す沖田くん。



「………、」



い…、今としくんの顔見上げる勇気ない……。



「ほらほら、あれ、何でしたっけ?梅がどうとかって…、ねぇはじめくん?」

「『梅の花、壱輪咲いても梅は…」

「だぁぁああああっ!!!だかましぃわぁあ!!」

「とっ!?としくんっ!?」

「っ!?」



静かな口調で俳句らしき物を呟いたはじめくんの声を遮るように突然発狂するとしくんにびっくりするわたしと、目をまん丸く見開いて固まるはじめくん。



「あぁあ、そうそう!一輪咲いても梅はうめねー!そんな感じのやつ!新しくてもっとセンスいいのお願いしますよー♪」



店内に所狭しといる誠自動車スタッフの間をひょいひょいくぐり抜けて逃げ回る沖田くん。



「〜〜〜〜っ!!近藤さんっ!今すぐ連れて帰ってくれっ!」



ん〜………、


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