平助の母親

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ひとしきりかぁちゃんの会社の人たちが教会の中に入っていくと、ホテルから土方先生が歩いてくるのが見えた。



「ちょっとちょっと、土方先生ぇっ!!」



ずっとこの不満を誰かに言いたくて、でも、教会の入り口から離れることができなかったオレは歩いてくる土方先生の元へ走り出した。



「どうした?大声出して」



なんだか少しいつもより不機嫌モードな土方先生だったけど、とりあえず歩きながらオレの不満を聞いてもらうことにした。



「オレ、なんも聞いてねぇけど?かぁちゃんと並んでみんなの前歩くとか!」



土方先生の隣を歩いて見上げながら文句を言うと、不機嫌モードの土方先生はさらに眉間にシワを寄せて顔をしかめる。



「……、んなもん…、俺だって聞いてねぇよ…」

「?」



しかめっ面の土方先生がボソッと何かを呟いた。全然聞き取れなかったけど…。
なんて言ったのかわかんなかったからそのまま疑問顔で土方先生を見上げると、さっき見たよりもずっと眉間のシワが深くなって、一目見ただけで背後におどろおどろしい空気を纏った角の生えた般若が見える。



「っ!?ひぇ…!」

「俺だってこんな…、何が悲しくてあいつらの前で…、しかも総司……、あいつにだけは……!」



土方先生の言葉は所々虫食い問題みたいに抜けてたけれど、言いたいことは伝わった…。
この人もこの状況に納得いってないって事…。


あー、
なんでこんな事になっちまったんだよぉ〜

って思って嘆いていると、同じタイミングで



「くそっ…、なんでこんな事に…!」


って舌打ちする土方先生の呟きが聞こえておかしいやらため息が出るやら…。

とにかくオレ達の足は教会へと向かった。



さっきオレが立っていた入り口はもう扉が閉められていて両脇に式場関係者の外人さんが一人ずつ立っていた。

そこで待機するように言われて二人重いため息をついたところで、もう一人やって来た関係者の人が慌てた様子で何か話しかけてきた。

どうやら式場内の様子を確認して欲しいって事らしい。
その人に案内されて土方先生の後について教会の横側にある奥の扉から入ると、さっきまで空っぽだった長椅子には大勢の男たちが並んで座っていた。



「おぉ〜!トシ!決まってるじゃないか!」



入り口のすぐ側に座っていた校長先生が立ち上がって土方先生に歩み寄る。
その横に座っていた斎藤先生も心なしか頬を染めて眩しそうな眼差しで土方先生を見つめている。



「土方先生…、この度はおめでとうございます…」

「ぉ…、あ、あぁ…、ありがとよっ…つーか!なんだよこの座り方はっ!?」



斎藤先生にお祝いの挨拶をされて視線を上げた先生は、教会全体に木霊するくらいの大声をあげる。



「あっはは!土方さん!仕方ないじゃないですか。みんな名前ちゃん側の参列者なんですから」



土方先生の叫びに負けないくらいのボリュームで笑う沖田総司。

どこから言ってるんだと見渡すと、オレが座るように指示されていた一番前の長椅子に一人悠々と両手を背もたれに掛けて座っていた。



「あーっ!そこオレの席だぞっ!!」



指差して言えば、



「いいじゃない。そっちにたくさん座るとこ余ってるんだから。」



なんて言いやがる。
そこの席に何の意味があるのか詳しいことはわかんねぇけど、教会の人に言われたんだからやっぱりそこはオレの席なんだぞ!
って言おうと口を開こうとした瞬間、



「そこは平助の席って決まってんだよ!テメェはこっちだ!」


さっと土方先生がオレの前を横切って総司の前にズカズカと歩いて行く。



「ちょっと、やですよ。なんで僕が土方さん側の参列席に座んなくちゃなんないんですか。」

「うるせぇ!近藤さんに連れてきてもらったんならおとなしく一緒に座っとけ!それができねぇならとっとと出ていけ!」

「わぁひどいな。それが祝福してあげる人に向かって言うセリフですか?ひどいなぁ、人として」

「うるせぇ!誰もテメェに祝って欲しいなんざ言ってねぇだろぉが!」

「まぁまぁ、二人ともやめないか」



校長先生が眉毛を下げながらも苦笑いで二人のやり取りを止めに入るけど、土方先生はそれでも文句ぶちぶち。



「っったく…、近藤さんもなんだってこんなやつ連れてきやがったんだよ…、折角の日が台無しじゃねぇか…」



ぶちぶち言う土方先生に校長先生は更に苦笑い。



「まぁまぁ、トシ!みんなお前たち夫婦の…、いや、家族の門出を祝いたいと思ってるんだから!そんな顔するな!」



校長先生にバシバシ背中を叩かれて舌打ちしながら「ったく…、なんて日だっ…!」としかめっ面でそっぽ向く土方先生がへそ曲がりの子供みたいに見えて笑えた。


その後、すぐに式場関係者の人が来て、神様の前で騒ぐんじゃねぇ的な感じで注意されて、オレと土方先生はさっきまで立っていた教会の入り口に連れていかれた。

本当は校長先生にオレの代わりをやってくれって言いたかったけど(お父さんっぽいからさ)、土方先生と総司のせいで結局言い出すタイミングがなかった。
まぁ言ったとしても当然却下なんだろうけど…。

それにしてもあの椅子の座り方…。

あんな偏った座り方でいいのかなぁ〜?
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