平助の母親

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のんびりとした南国ムード満載のBGMが流れるホテルのロビーが突然賑やかになって千鶴と二人顔を見合わせて振り向けば、そこに見えたのは……。



「トシ〜!」

「っ!?こっ!?近藤さんっ!?」

「あ〜いたいた。土方さん♪」

「なっ!?総司までっ!」



ロビーに入ってきた集団が一気にかぁちゃんと土方先生を取り囲み聞こえて来た会話でそこにいるとは思えない人物の登場にオレたちも驚いてしまう。



「なんでこんなとこに雁首揃えて来てんだよ、近藤さんっ!?」

「ははは!なんでって!そんなの苗字さんとトシの結婚式に立ち会わないわけにいかんだろう!」

「そうですよ、こんな面白いこと、見逃すわけにいかないじゃないですか」

「面白いって…。総司てめぇ…!冷やかしに来たんならとっとと帰れっ!」



派手に土方先生の頭の火山が噴火したのを久しぶりに見た気がする…。
沖田が絡むといつもの事なんだけど。

呆れてやんやと騒ぐ集団を見ていると、不意にポンと肩に手を置かれて振り向けば、



「よ!平助!久しぶり!」

「えっ…、おっ…、どぅぉわあぁ!?左之さんっ!?うっそ!マジかよ!?どーしてここに?」



またもやありえねぇ人の登場にソファーから立ち上がって大声を出して相手を見上げる。



「えっ!?うそっ!原田さんまで!?」



オレの声に反応したのか、かぁちゃんが走って戻ってきてオレの目の前にいる人をオレと同じように見上げる。



「よ!苗字!」

「よ!って原田さん!それに皆さんまで…、一体どうしたんですか!?こんなところで!?」



手を軽くあげてかぁちゃんにも挨拶をする左之さん。
その後ろには大勢の男の集団がいて、みんなそれぞれ肩から荷物を提げてたり、観光用のパンフレットを開いてたり…。



「どうしてって…、慰安旅行だよ。」

「えっ!?慰安旅行!?わたしは!?えっ!?聞いてないですよ!?」



どうやらかぁちゃんだけなんも聞いてないらしく、かなり焦っている。



「こんにちは、苗字さん、こんなとこで会えるなんて奇遇ですねぇ」



そう言ってゆっくりとした口調で近づいてくる丸めがねの人に、またまた驚くかぁちゃん。



「さっ!山南部長!慰安旅行って!わたし聞いてないですよ!?」

「えぇ、誰もあなたにはお伝えしてませんからねぇ」



にっこり笑ってすこしだけ首を傾ける人に、一瞬かぁちゃんはピシッと石化したみたいだったけど、何とか我に帰って拳を握る。



「お…、お伝えしてませんからって…、そんな、ひどいです!どうして…」



震える声で言うかぁちゃんにそっと近づいて後ろからポンっと両肩に手を置いた人が優しく答える。



「山南君、言い方があるだろう…。こんなに、悲しそうな声を出させてしまって…、なんだか悪いことをしてしまったようだね…」

「えっ!?…まっ!松平社長っ!?」



振り向いたかぁちゃんが驚きの声をあげると社長と呼ばれた男の人は眉毛を下げて済まなかったねと小さく首を傾げて謝った。

そこに土方先生も戻ってきてグアムのホテルに大勢の日本人の男が集合する。



「松平先輩まで…。」

「やぁ、トシ!やっぱりどうしても二人を祝福したくてきてしまったよ!」

「え…?」



かぁちゃんの会社の社長さんが、いや〜、まいったまいったって感じで頭の後ろに手をあてて笑いながら言うのを、かぁちゃんと土方先生、二人並んで何が何だかって感じで一瞬固まるけれど、
すぐに眉間にシワを寄せた土方先生は振り向いて怒鳴り声をあげる。



「近藤さんっ!」

「ぃやっ!すまん!だがな、やっぱり俺だって二人の晴れの日にはどうしても立ち会いたかったんだよ!それに公にしたくないトシの気持ちも分からんではないが、ここは松平社長にも是非とも知らせねばと思ってしまって…。トシとは昔からの古〜い付き合いじゃないか〜。俺の気持ちもわかってくれ!」

「そうですよ、土方さん。今までどれだけ近藤さんに良くしてもらってきたと思ってるんです?こんなことで恩返しになるんだったら安いもんじゃないですか。…それに、名前ちゃんのウェディング姿だって、独り占めみたいにしようとして…。少しは一くんの気持ちも考えてあげたらどうなんです?」

「っな!!?何を言う、総司!おっ!俺はっ…」



いきなり名前を出されて、それまで近藤先生の後ろに隠れていた斎藤先生は、顔を一気に真っ赤にして必死に何か言おうとするけれど、沖田の言葉に続いてかぁちゃんの会社の社長さんが話し始めちゃったからそれ以上弁明できずに小さな声で何かボソボソと言いながら俯いていた。
斎藤先生かわいそうだ。



「苗字さん、慰安旅行の件、黙っていて済まなかったね。急遽持ち上がった話でね…。みんな君を祝福したくて決まった事なんだよ。」

「え…」



かぁちゃんを優しく見下ろして言う社長さん。



「本当だったらこんな年末の時期に会社をカラにするなんてこと、まずはあり得ないんだがね、だが、そこは他の拠点の社員にも手伝ってもらって何とかできることだし、何より君の職場の連中は団結力が凄いからね。言い出したら聞かないから。」



そう言って笑顔をあげて左之さんをはじめ会社の人たちに振り向くと一斉に地響きが起こるくらいの笑い声が上がる。



「そりゃあ、仕事なんていつでもできることだが、苗字のウェディング姿なんざそうそう拝めるもんじゃねぇしな。」

「そうそう!なんたって名前ちゃんはうちの、誠自動車の大事な大事なプリンセスだからな!」



左之さんとそれからもう一人の筋肉マッチョな人が白い歯を見せて笑う。



「みなさん…」

「ったく…、だからって本当に来るこたねぇだろ、しかも会社行事として…、」

「はははっ!それが誠自動車だ」

「……、どうかしてるぜ」



笑い声に包まれて呆れる土方先生の横で、嬉しそうに泣き笑いするかぁちゃんは、こんなに大勢の人に大切に思われてて、本当に幸せもんだと思う。



がんばり屋のかぁちゃんをみんなが認めてくれて必要としてくれて…。



やっぱりかぁちゃんはオレの自慢のかぁちゃんだ。
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