平助の母親
□111.
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「うわっ、さっみぃ〜!!」
車から外に出るとそれまで寝ていたオレ達にはほんとに目が覚めるくらいの空気の冷たさで思わず千鶴と二人、揃って同じポーズで身を屈める。
「ふふ、大丈夫?風邪引かないようにね?」
車の前からオレ達の方を振り向いて笑うかぁちゃんと、オレ達が車から降りたのを見てリモコンキーで車の鍵を閉める土方先生の側まで歩いていく。
「なぁ、ここどこ?めっちゃ寒いし…。てか今何時?」
辺りを見回しても真っ暗闇でたくさんの背の高い木に囲まれた、ただ、今立ってる場所はアスファルトで固められた駐車場だってことくらいしかわからない。
「今は…、明け方の4時位かな。」
そう言いながら歩き出したかぁちゃんと土方先生の後をついてオレ達も歩き出す。
アスファルトの駐車場には他にも数台車が停まってたけど他に人はいないみたいだ…。
両脇を背の高い木に囲まれた砂利道を歩いていくと、かぁちゃんと土方先生の歩く先に広がる光景に、思わず声が出る。
「う…、わぁ…」
立ち止まるかぁちゃんの横にオレと千鶴も並んで足を止める。
目の前に広がるだだっ広い夜空に次々と流れる流れ星。
「すごい!こんなに見えるんだ!」
驚いてるのはてっきりオレ達二人だけかと思ったのに、一番に声をあげたのはかぁちゃんで、違う意味で『え?』って思う。
「流れ星!わたしの田舎でもこんなに見たことなんてないですっ!」
完全に目の覚めた様子の千鶴も両手をあごのしたで合わせて嬉しそうに目の前に広がる夜空を見上げる。
「おら、んなとこ突っ立ってねぇで行くぞ」
目を輝かせて見上げるかぁちゃんと千鶴、
ぽかーんとしているオレに、歩き出した土方先生が苦笑いしながら声をかけて歩き出す。
広い星空の下にはまばらにだけど結構な人がいて、みんな同じように空を見上げて星が流れるのを笑顔で待ってる。
一瞬の煌めきが暗闇に線を描くたびにそっちこっちから歓声や指さしが上がったり。
「平助、千鶴ちゃん!こっちこっち!」
レジャーシートを広げる土方先生の側に駆け出したかぁちゃんに手招きされてオレ達もそこに向かう。
「お前らはそっちな」
もう一枚のレジャーシートを広げながら既に敷き終わった方をあごで指す土方先生の言葉に従ってそこに腰を降ろす。
かぁちゃんも土方先生の広げるシートの端を引っ張って整えるとご機嫌でそこに座った。
「すごいよね、しし座流星群だって…」
オレのとなりに座ったかぁちゃんはまっすぐ夜空を見上げて呟いた。
「としくんがね、家族みんなで同じ事をして同じ事を感じて、同じ思い出をたくさん増やしていきたいって…、ね?」
そう言って見上げた顔を星空からまだ立ったままだった土方先生に向けると、一瞬ギクッっとした感じで肩が僅かに上がったけど、そのままなんでもなかったかのようにそっぽ向いて星空へと顔を向ける。
「…まぁ、…たまにはいいだろ?」
そんな言葉を呟いて。
「ふふふ、…照れてる」
肩をすくめてオレたちにナイショ話するみたいに笑うかぁちゃんに千鶴も一緒になってクスクス笑う。
そんな二人に挟まれてオレも一緒に笑ってると、「照れてねぇよ!」と眉間に皺寄せて目ぇつり上げてちょっと控えめな声で怒鳴る土方先生がこれまたおかしくてあっははって指差して笑っちまった。
そんな土方先生の背後では光のシャワーが振り注ぐくらいの流れ星がヒュンヒュン流れはじめて笑いが驚きに変わる。
「あ、スゲェ!」
「ぅ…、わぁ〜!」
オレが指差した方向を全員が見上げて、感嘆の声をあげる。
次から次へと現れては消える流れ星。
一度にこんなにたくさんの流れ星を見たのは生まれて初めての事で、というか、こんな真夜中にこんな山奥にいることも初めてだし、こんなこと思い付くこともなかった。