平助の母親
□110.
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☆★それぞれの変化★☆
お盆休みの間、澄んだ空気と綺麗な小川が流れるスッゲーのどかな村で、今まで体験したことないくらい充実した毎日を過ごした。
千鶴と一緒に宿題したり、畑仕事を手伝ったり、村ん中をアイス食べながらゆっくり散歩したり、川で水遊びしたり…。
夜になったらぽっかり浮かぶ月を二人で眺めたり、広い庭で花火したり、
花火が終わって縁側でまったりしてるときに千鶴のおじさんが酔った勢いで、
「昔苗字さんに千鶴の母親になってもらいたくて、何回かアプローチしたけど気付いてもらえなかった」
とか言ってたのがマジ意外で笑えた。
そんで更に
「まぁ、千鶴の努力次第でなんとかなるだろうけどね」
なんてビールで真っ赤になった顔で楽しそうに笑ってたっけ。
お盆の最終日、この村で一番の夏祭りはサイコーにすごかった。
こんな小さな村なのにどこからこんなに人が集まってくるのか…。
夜店の通りも人がいっぱいで、俺と千鶴はそうするのが当たり前のように手を繋いでて。
ガキの頃繋いでたのと同じようで、なんか違う。
いや、同じか。
だってオレはガキの頃から千鶴を今と同じ気持ちで見てたからな。
千鶴の浴衣姿はやっぱりかわいくて最初はまともに見れずにいたけど、そんなんも祭りの盛り上がりのせいですっかり忘れていつの間にかお互い楽しくて笑ってて。
土手から見上げた星空にでっかく咲く花火も、川を流れていく精霊流しも、全部がオレにとって初めての事でスッゲーいい思い出になった。
お世話になった千鶴の叔父さんと叔母さんに、畑で取れた野菜をたくさんお土産に持たされて、『来年も楽しみに待ってるよ』って見送ってもらって。
親戚なんていないオレにはマジで何もかもが新鮮で、
こんな体験をさせてくれたみんなに感謝の気持ちでいっぱいになった。
そんなほくほくの気持ちで家に帰ってみれば、やっぱり家の車庫には土方先生の車が停まってて、やっぱりなって思う。
ただいまって玄関を開ければ母ちゃんが勢いよく出迎えてくれて、その後ろで「おかえり」ってふっと笑う土方先生。
そんな二人の左手には今まで見たこともなかったキラリと光る指輪がついていて。
やっぱり二人は結婚するんだって、
自分の家族の形が変わっちまうってのに、どこか他人事みたいに思えて。
だけど、かぁちゃんがあまりにも幸せそうに笑うから、
だから俺も嬉しくなる。
オレと母ちゃんと土方先生と、
三人で飯を食うのは初めてで、千鶴がいないのがちょっといつもと違って最初こそ何を話せばいいのか緊張したけど、
そんな空気もすぐになくなって、
二人とも優しい顔でオレの土産話を楽しんで聞いてくれた。
こんな風に土方先生がうちにいることが自然だって思えるのって、スゲー不思議だけど…、
たぶん、家に帰ったときに「おかえり」って言ってくれたから…。
「おかえり」って、スゲー安心する。
オレの帰る場所があって、そこに迎え入れてくれる家族がいて…。
オレのあったかい居場所が増えた夏休み。