平助の母親

□108.
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わたしの左手には、それまでなかった物がキラキラと輝いている。

天井に向けて伸ばしたそれをじっと見つめていると開いた指の間から、同じように輝く銀色が覗いてぎゅっと組み合わされる。



「としくんもつけるの?」



握られたまま、掲げたままの、重なるわたしの薬指ととしくんの薬指に輝くシンプルなペアリング。
わたしのは華奢なリングが一粒のブリリアントカットのダイヤを挟み込むようなデザインで、シンプルだけど、リングが華奢な分一層ダイヤの輝きが増すデザインで、



「おまえがちゃんとつけてくれるんならな」



そう言うとしくんのはマットでつや消しのシンプルなリング。



「これ、手作りって、ほんと?」



すごくきれいだけどシンプルで、言ってみれば日本中、探せばどこにでも売ってそうなデザインだけど…。
それに手作りで、こんなにツルツルにきれいにできるものなのかな…。

そんなことを思いながら聞いてみれば、繋いだ手をほどいておもむろに右手で指輪を外すとしくん。

外した指輪を右手の親指と人差し指でつまんで、わたしの肩からまわしていた左腕を引いてくっついていた二人の体を離して向き合うように座り直すと、わたしの指輪がはめられている左手の薬指にその指輪をはめる。



「?」



としくんの大きな指輪をわたしの指に?大きすぎて抜けちゃうよ…?

不思議に思いながらとしくんの指輪を持つ指と自分の左手を見ていると、わたしのはめていた指輪の上にぴったりと重なって、わたしの指輪の石がとしくんの指輪の内側に空いた穴にぴったりとはまってジョイントする。



「えっ!?なにこれ!スゴい!!」



普通のペアリングって、上下に合わせてハートとか天使の羽とか捻れたリングの形が合わさるとか…、そんなのはいっぱい見たことあるけど…、

こんな、大きいリングの内側に小さいリングを入れて…、二重にして重ねるデザインなんて見たことない。



「俺たちはこの指輪と同じようにこいつとこいつ、俺とお前でしか重なりあうことはねぇ。俺がおまえを、この指輪と同じようにどんなことからも守るように包み込んでやる。」



重なった指輪は、ほんとに一つに重なって、もともと一つの大きなサイズの指輪だったみたいに見えて…。



「スゴいね…。世界に一つしかない、としくんの手作り…。」

「ほんとは藤堂みたいにメッセージでも入れようかと思ったんだがな…。そんなもん総司にでも見られた日にゃあ……、」



わたしの指にはまる二つで一つに重なった指輪を苦虫を潰したような顔で眉間にシワを寄せて見ているとしくんに思わず噴き出してしまう。



「ふふっ!としくん、顔!」

「あ?」



そのままの顔をわたしに向けるからますますおかしくって。



「でも、これなら一緒につけてても全然大丈夫だね!こんなふうに重なるなんて誰も思い付かないもん!」



わたしの顔を見たとしくんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐにふっと笑って



「気に入ってもらえたみてぇだな」



その顔が、すごくほっとしたような、肩の力も抜けて、本当に安心したような、そんなとしくんの気持ちが全部表れたような表情だった。





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