平助の母親
□107.
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☆★強がりで泣き虫でどうしようもないから★☆
俺の膝の間に座って俯きながら小さく震えて涙と共に溢れた言葉…。
「優しくしないでって、名前……、」
肩に置いた手を俯いた名前の顔を隠すように覆う髪に触れようとした瞬間、
その手は名前の左手にゆっくりと阻まれてしまう。
「……、名前………」
「………、わたし…、ダメなの…」
「……?」
俯きながら、ぽろぽろ溢れおちる涙を拭おうともしないで、ポツリポツリと呟くように話し出した名前。
土曜日の朝に会ったときとはまるで違う雰囲気に、会わなかった二日間に一体何があったのか、
先に聞きたいのを堪えて今は名前の紡ぐ言葉を聞き逃さねぇようにじっとみつめる。
「わたし…、としくんの優しさに頼りすぎてた…。」
「………?」
「たった二日間だけなのに…、としくんの声、聞けないだけで…、わたし…」
そこまで聞いて漸く気付く。
まだ何かを言おうとしていた名前をきつく抱き締める。
「っ…!?」
「悪い、名前…、連絡できなくて…。」
俺との連絡が取れない間、こいつはきっと一人で不安を感じていたんだろう…。
最低でも毎晩一度は声を聞いてそれから眠るのが日課になっていたのに…。
声を聞くどころかメールさえも届かずに、
誰もいない家で、一人の夜、
せめてそんなときくらい俺がこいつの寂しさを紛らわせてやらねぇでどうするんだ…。
「出掛ける前に、せめて一言言っておくべきだった…、悪い…。」
抱き締めたまま、名前に顔を寄せて言えば小さく首を振る。
「ううん…。だって、仕事の都合とかいろいろなお付き合いがあったりとかで、連絡が取れない事なんてきっとこれからもっとあると思うし…、こんなことでいちいち子供みたいに…こんな風に泣くなんて…、ほんとダメなんだもん……。」
「………、」
「………、だから………、だから、もう優しくしないで」
「………っ」
「もう会わない…」
…………。
固まる俺の腕から離れてソファからゆっくりと立ち上がる。
見上げればその場から離れて行こうとする名前の左手を掴んで俺も立ち上がった。
「会わないって…、どういう…」
名前の言っていることが理解できずに、掴んだ手にも力が入らずにいたが、そんな状態でも名前は俺の手を振りほどくなんてことはしなかった。
ただこちらを向くことはなく、俺に小さな背中を向けて…。
「………わたし…、平助のお母さんだから…。こんな弱虫じゃダメなの。前みたいにどんなときも笑って、いつも明るいお母さんでいたいの!」
そう言ってついに俺の手から離れて、俺に背を向けたまま両腕を抱えこむ。
「………、」
「……今のわたしは、昔の…、藤堂さんと別れたときと同じで…、こんなこと繰り返すのはもうヤなの…。それに…、あの時とはもう違う…、平助だって大きくなってるから、泣いてなんかいられないの。」
「…………。」
「こんなことで泣くくらいなら、はじめから頼るとこなんて…、甘えるとこなんて要らないの!……!?」
「悪い…!寂しい思いをさせて…。すまない…。」
名前の震える叫び声を聞いていられなくて、思いきりきつく後ろから抱き締める。
相変わらず小さな背中はすっぽりと俺に包み込まれて、まるでここにはこれしかはまらないパズルの一片のように…。
俺には名前しか…。
名前は俺にしか合わない世界でたった一人の女なんだ…。