平助の母親
□106.
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としくんの胸に抱き抱えられて、ダイレクトに伝わってくるとしくんのゆっくり刻まれる鼓動を聞いていると、ついさっきまで感じてた訳のわからないモヤモヤとした感情が嘘みたいに消えていく。
やっぱりわたしは、もう戻れない…。
としくんなしじゃいられないくらい、
もう、わたし一人じゃ、ダメなんだ…。
こうなるって…、わかってたのに…。
こんな風になるのが怖いって…。
いい歳した、それも子供を育てていかなきゃいけない大人が…
こんなに感情に振り回されて…、情けない。
グッと握った拳に力が入ってしまう。
するとわたしの背中を優しくポンポンと一定のリズムで動いていた手が止まり、落ち着いた静かな声がわたしの頭のてっぺんから伝わる振動と共に聞こえてきた。
「……、どっか、具合でも悪いのか?」
背中にあった手が今度はわたしの頭を優しく撫でる。
こんなに優しくされて、ほんとはずっとこうしていたいと思うのに、
優しくされればされるほど、
わたしの心の奥底がぎゅうっと痛くなって、このままじゃいけないって何かが反発する。
としくんの声が、
手が、
わたしを包み込む総てが優しければ優しいほど、
きっとわたしはダメになる。
ほら、
涙が止まらない。
こんなの、
こんなんじゃ母親として失格だよ…。
「どうした?」
としくんの問いかけに、いつまでたっても答えないでいると少しだけ体を離して覗きこまれる。
わたしの泣いてる顔を見て驚いたのか、抱え込んでいた腕が肩に置かれてぐいっと体を起こされる。
「おまっ…、どうした?どこか痛ぇのか?」
心配そうに声をひっくり返してわたしの顔を覗きこむとしくんだけど、
わたしはそんなとしくんを見上げることもできずに、ただ「うぅぅ〜」と歯を食いしばってぎゅっと閉じた目から涙を流すばかり。
それどころか肩まで力が入ってしまって小刻みに震えてしまって…。
ほんとに子供みたいで情けない。
「……もう、………やだよ………」
情けないわたしの口から出た声は、何もかもが情けなくて、こんな自分が嫌で堪らない。
しっかりして、笑って、
誰にも心配かけたくない。
強くなくちゃ…、
誰かの優しさがなくちゃいられない弱い自分なんてダメ。
だから...
「もう…、優しくしないで………」
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