平助の母親

□105.
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疲れた体に鞭打って、早く喜ぶ顔を見たくて車とばして来たってぇのに……。
俺の聞き間違えか…?



「…、名前?どうした?」








二日ぶりに戻ってきた名前の家の車庫に車を停める。
その動作も、もう既に我が家同然のものとして身に付いてしまっているようで笑っちまう。

エンジンを止めて必要なものだけを持って車から降り、いつも通り玄関へと向かうが、そういえば俺一人じゃ玄関開けられねぇじゃねぇかと気が付いて苦笑いしながら表のインターフォンの前に立つ。

インターフォンを鳴らし、少し待ってみるが何の反応もない。


………いないのか?


もう一度そいつを押してはみたが、気の短い俺はそのまま玄関の鍵が開くのか確かめに扉の前に移動する。

扉の前に立ってみればすぐに感じた、扉の向こうにある気配は紛れもなく名前のものだと気付く。









「おい、開けてくれ」

「………、」


何度このやり取りを繰り返しても反応は同じで名前から返ってくるのは無言のみ。



………、

必死の思いで戻って来たってぇのに、最初に聞いた名前の声が『いやだっ!』って…。

そんなガキみてぇな感情の表し方をする名前なんて想像することも難しいくらいだってのに…。
一体どうしちまったんだ?



全く理解できず、かといってこれ以上ここで扉を叩きながら「開けろ」なんて叫び続けていたら、いつ通報されてもおかしくねぇ…。




「…………、わかった。帰るよ。」




どんどんと扉を叩く手を止めて扉から離れる。













…フリをして暫く息を潜めて様子を伺っていれば、静かにゆっくりと回るドアノブ。
その動きに従うようにゆっくりと、ほんの僅かに開いた扉をここぞとばかりに引っ張り、素早くその内側に押し入ると、
目に飛び込んできたのは、大きく目を見開いて驚く名前の俺を見上げる顔とむき出しの白い肩。



「きゃっ!?」

「おっ…!?おまえ、なんつーかっこしてやがんだ!?」

「っ!…、!……きっ……きゃぁぁもがっ*※¢♀%@#♂§☆!!?」

「なっ!!?ちょっ!おまえっ!」



急に身を縮めて悲鳴を上げる名前の口を塞いで黙らせる。
ジタバタもがいて暴れているが、こんな玄関の扉一枚で、筒抜けた悲鳴を聞き付けた誰かが来やがったらそれこそただじゃ済まねぇだろ。



「ちょっ!いいからちょっと落ち着けって」

「んーーー!んーーー!んーーー!」



暴れているうちに後ろから抱き抱えて口を塞ぐ格好になった俺の腕をベシベシ叩き、涙目になって顔を真っ赤にする名前の顔を見て、そこで漸く「あ、こいつ息できてねぇ」と気が付き口に当てた手を離してやる。



「わ、わりぃ…、力入れすぎた…」



俺から解放された名前は少々むせながらも息を整え、振り向いてまだ赤い顔で口をパクつかせる。



「な、なな、なんっ!…、帰ったんじゃ……!?」

広いわけでもない玄関で大きく腕を上げて指差しながらどもる名前の腕を掴んで引き寄せる。



「だからおまえは…。人に向かって指差してんじゃねぇよ」

「っ!?きっ…!ky…んんんんんーーー!!!?」


一気に俺に抱え込まれ、また悲鳴をあげようとするその口をその声ごと全部塞いでやった。
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