平助の母親
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「ところで苗字、海に行く話だが、平助は?なんつってた?」
騒ぐ永倉さんをほったらかしにして何事もないように話しかけてくる原田さんにハッと顔を向けると原田さんも一瞬目を丸くして、それから呆れて肩を落とした。
「おいおい〜、まさか伝え忘れか?」
「は、はい…、すっかり忘れてました…」
申し訳なくてしょぼんと俯くと
「ま、昨日はいろいろ衝撃的だったし、抜けちまってもしょうがねぇっちゃしょうがねぇけどな」
と呆れながらも優しく微笑んでくれる。
「とりあえず予定では月曜の朝出発で夜には送り届けてやるからよ。帰ったらちゃんと伝えとけよ」
「あ〜、うー、…それがですね、原田さん…、」
すっかり平助も連れて行ってくれるつもりでいる原田さんに申し訳ないけど声をかけると、「ん?」とそういうつもりはないんだろうけどお色気たっぷりの眼差しで見返されて必然的に目を泳がせてしまう。
「あ、あの、平助なんだけどね、実は今日の朝から出掛けちゃってうちにいないんです…」
「??」
「えと、昨日の夜にね、突然千鶴ちゃんの帰省に便乗するって話が持ち上がって…、それで…、朝…、出発しちゃっ…、て…?」
「はぁ!?マジか!?」
「うぅ、マジです…」
「なぁんだよ、せっかく平助にいろいろ体験させてやろうと思ってたのに…」
「うーー、すいませんです…」
原田さんのガッカリぶりがあまりにも予想外の反応だったから申し訳なさが何倍にも膨れ上がる。
さっきの永倉さんじゃないけど申し訳なさすぎてご飯が喉を通らない。
なんとも居た堪れない気分でいると「ま、しょうがねぇか」とふーんというため息と穏やかな声が聞こえて顔を上げてみると、やっぱりセクシー且つ優しい表情で顔を傾けて微笑む原田さん。
「仮にお前が昨日の時点で海に行く話してたとしても、おそらくこっちにゃ来なかっただろうしな」
そういってぽんぽんわたしの頭を優しく叩くと、
「千鶴ちゃんよりも魅力的な企画なんて平助にとっちゃ皆無に等しいだろうしな」
と笑う。
わたしに気にするなって暗に言ってくれているようで、ご飯も喉を通らない気分だったのが次第に軽く晴れていく。
「なんだ?弁当食わねぇのか?だったら俺が食ってやるぜ?」
わざとらしくニヤリ笑ってわたしのお弁当の中覗いてお箸を伸ばしてくる原田さんに、
「ダメです!こんな有り合わせ弁当、人様に差し出せるようなものじゃありませんからっ!」
とお弁当を抱え込んでベっと舌を出す。
そんなわたしを見ていつも通り笑ってくれる原田さんはやっぱり大人だなぁ…。