平助の母親
□102.
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今日のショールームは、世間ではお盆休み初日とあってお客様の入りは極めて少ない。
サービス工場の方もほとんど昨日までに納車を済ませてしまっていてなんとなくみんな手持ち無沙汰。
お昼休憩も普段なら数十分の交代でほば一人ずつ、って感じで取っているけど今日みたいな日はロッカールームいっぱいになるほどいっぺんに休憩してもいいくらい。
とは言っても……………。
この落ち着かない感じ………。
「名前ちゃんと一緒に昼飯食うなんて初めてだなぁ!」
いつも食べ盛りのサービススタッフがこぞって行く近所の定食屋さん(かなりの破格設定大盛サービス)もお盆休みみたいで今日は原田さんと揃ってコンビニ弁当の永倉さんが嬉しそうに透明の蓋を開けながら言う。
「永倉さん、いつも外ですもんね」
わたしも持ってきたお弁当箱の蓋をぱかぱか開けて会話を合わせながらお箸を持って手を合わせる。
「新八は毎日定食屋の看板娘に会いに行くのが唯一の楽しみだもんな」
「なっ!?ぉおい左之ぉっ!?誤解を招くような言い方するんじゃんねぇよっ!」
いつもの要領で割り箸を口でくわえて片手で割る原田さんに慌てて否定するように机をダンダン叩く。
「違うんだ名前ちゃん!看板娘つっても六十越えたオバチャンだぜ?」
「えぇ?永倉さんひどいです。いくつになっても女性は女性ですよ?」
「ぐぬぉっ!そう言われちゃそうなんだがよ…」
「ははっ!ま、苗字にとっちゃぁ、お前がオバチャン目当てだろうがなんだろうがキョーミねえって事だよ」
「ぐあぁぁぁっ!ひでぇぞぉ!ひでぇぞ左之ぉ!飯が喉通らねぇくらいショックだぁっ!」
「ははは、それはねぇだろ」
大袈裟なリアクションでいつもより狭く感じられるロッカールームはなんだか熱気ムンムン。
そんなオーバーリアクションの永倉さんに、いつもと変わらない余裕の態度で食事を進めながら笑う原田さん。
いつもと違う賑やかなお昼のメンバーには、永倉さんと同様、わたしが入社してから一度もお昼の時間が被ったことのない若手営業マンの佐々木さんもいた。
佐々木さんは暴れる永倉さんの横でも嫌な顔もしないでにこにこ食事をすすめ、時折横においた携帯電話を気にしてチラっと見たりしている。
そんな様子を正面に座る原田さんがにこやかに少しからかうような口調で笑う。
「なぁんだよ佐々木、そんなに気になるんだったら見ればいぃじゃねぇか」
「え?」
「俺たちに気なんか使わなくていいぜ?」
「あ…」
原田さんに促されてケータイに視線を落とす佐々木さんにつられてわたしも同じように彼のケータイに目を向けると小さく着信を知らせる青い点滅ランプが光っていた。
「なんだなんだ佐々木ぃ!彼女か?彼女なのかぁ!?」
にやにやと横から佐々木さんのケータイを覗きこむように上半身を寄せる永倉さんの動きに合わせて佐々木さんの上半身も気持ち斜めに傾いて、机の上に置いてあった携帯電話を手にとって苦笑いを浮かべる。
「え、えぇ、まぁ…。」
「なっ!?なにぃっ!?彼女だってぇ!?」
自分で聞いておいてそんなに驚くなんて………。
逆に永倉さんのその反応の方が驚きでしょ…。
「はい、明後日からの連休で彼女と二人で温泉旅行に行くことになりまして…」
「なっ!?なにぃいい!?彼女と二人で温泉旅行だとぅぉお!!?」
「……しぃんぱち、座れって………」
ガタンと勢いよくパイプ椅子をひっくり返し立ち上がる永倉さんに呆れてため息をつきながら原田さんが声をかけるけれど、やっぱり永倉さんには届かないらしく、ものすごい勢いで佐々木さんに色々いろいろ聞きまくっている。
「彼女と二人で温泉旅行っておおおいっ!!!!!」
「…………」
「…………。」
暴れまくる永倉さんにすっかり青ざめてドン引きの佐々木さん。
そんなに二人を前に、テーブル一つ挟んで正面に座って食事を進める原田さんと、お口あんぐりのわたし。
佐々木さん……、
自爆です。