平助の母親

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「じゃぁ、行ってくるね」

「おう、がんばれよ」

「ふふ、送ってくれてありがとね」



名前の職場に程近い場所で停車させた車内での会話。



「としくんはこの後どうするの?」



シートベルトに手をかけて降りる準備をしながら尋ねる名前に、どうせまた自分じゃ外せねぇだろうがと思いつつもあえて手を貸さずに考えるそぶりを演じつつ答える。



「まぁ…、色々やることはある。」



そんな曖昧な答えに「ふぅん」と気のない返事をよこす名前だが、それもやはりこの一筋縄ではいかないシートベルトのせいだろう。
上半身を捻って両手でカチャカチャぐいぐい色々やってはいるが、俺の愛車のシートベルトはなかなか思うようにはならず、名前の体を離そうとはしない。



「…………、」



完全に神経をそちらに集中して必死にシートベルトと格闘する名前をみる。
たぶん俺の顔は真顔を保っているだろうがその実、内側は混み上がる笑いが顔に出ないよう抑えるのに必死だ。

俺が真顔を黙って向けていることにやっと気が付いたのか、肩に力を入れながらパッと顔を上げると、バッチリと目が合う。



「ちょっ…、としくん!見てないでコレ、ほんと修理した方がいいって!」



俺と目があった瞬間、かぁぁっと顔面真っ赤にして怒り出す名前に堪えていたものが堪らず噴き出す。



「ぶっ…、くくく…、だから昨日も言っただろうが、修理はしねぇって。こいつぁちょっとしたコツを掴めばなんてこたねぇんだよ」

「コツって…、じゃあそれ教えてよ!」



さらに顔を赤くして喚く名前に身を乗り出して顔を近づける。




「そいつぁ教えてやれねぇな」

「っ!…な、なんで!?」

「自分で外せるようになって勝手に逃げて行かれたら困るだろ?」

「っ!?逃げるって……、」



目と鼻の先の距離でニヤリと笑ってやれば、大きく目を見開いて口をパクつかせる。
……、おもしれぇ。

付き合わせた顔はそのままに、視線は名前を捕らえたまま、手元の金具をカチャリと外してやる。



「お前は絶対逃がさねぇ。…いや、……離さねぇ」



金具から外れたシートベルトを離したその手を名前の襟足に差し入れぐっと引き寄せる。









「………、まじぃ………」

「んもぉ!としくんのバカッ!グロス取れちゃったじゃない!バカっ!」




こんなじゃれ愛も名前となら飽きることはない。
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