平助の母親
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「いっ……、いよって…!なんでっ!?」
「なんでって、お前人に向かって指差すんじゃねぇよ」
そんな答えになってない返事をしてわたしのまっすぐに延びた右手をぐぃんと下げるとしくん。
「ま、立ち話もなんだし入ろうぜ」
「へ…?あ…、ちょっと!?」
そう言ってわたしの握っていた家の鍵をさらっと持っていって何食わぬ顔で玄関を開ける。
「おら、さっさと入れよ」
「え!?え!?えぇ〜!?」
「あ、あの、とし…、くん…?」
「あぁ?」
我が物顔で家に上がりフツーにソファでまったり寛いでいるとしくんに声をかけるとニュース番組にチャンネルをあわせてリモコンをローテーブルに置いたとしくんがこちらを振り向く。
「あの、ですね。わたし、
これからお仕事で…、でしてね…?」
「あぁ、早く支度しろ?」
「え!?え…、ていうかじゃぁあなたは一体何しにうちへ?」
わたしが仕事に行くのわかってるのに、何故こんな早くからうちに来たのか不思議でたまらない。
来たって意味ないのに。
「何しにって…、まぁ、一言でいうなら………、散歩だ」
「散歩!?」
いや、散歩って。めっちゃクルマで来てますよね!?散歩ってそうなの?歩きじゃなくても散歩ってゆーの!?
【散歩(さんぽ)とは、気分転換や 健康のため、あるいは好奇心から、または特に目的地を設けずに歩く行為である。 散策(さんさく)ともいう。】(by:Wikipedia)
ですよねー!クルマで来たら散歩って言わないですよねー!
「散歩じゃないですっ!」
むんっと力を込めて否定すればとしくんはふっと笑って立ち上がりわたしの目の前に立つ。
「どーでもいいだろ。お前の顔見に来たんだよ」
大きな右手がわたしの頬を包んで、としくんはとても柔らかい表情で笑った。
その表情にぽぉっと我を忘れて見入ってしまっていると、またふっと笑われてハッとする。
「おら、さっさと支度しろ。化粧も時間かかるんだろ?」
むにっとほっぺを摘まむとくるっときびすを返してまたソファに座る。
「俺のことはお構い無く。てきとーにテレビ見てるからよ」
ヒラヒラ手を振ってこちらに背中を向けるとしくんの考えてることが全くわからず、かといって問いただしていてもきっと時間が過ぎていくだけだと思うし…。
「…………、じゃぁ……、お化粧してくる……。」
ぽそっと呟いたわたしの声は、果たしてニュースを読む人気女子アナの声に遮られずにちゃんととしくんに届いたのかどうか…。
ふぅとため息が出るけど、刻々と進む朝の時間に気が付いていつも通り、自分のペースで出勤前の支度に取りかかった。