平助の母親
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☆★朝の時間★☆
「ほんじゃあ行ってくるけど…、…………、」
「…………、けど何よ」
念願の千鶴ちゃんとの夏祭り帰省の出発の時だというのになんだか歯切れの悪い平助にあまりいいこと言われないのはわかってるけれど、「けど」の続きを催促する。
「………オレがいないからってあんまりハメはずしたりすんなよな?」
「………、はずさないもん。今日だって仕事だし…。」
「……………。」
じとぉ〜っとした目で見てくる平助。
くぅ、
「へ、平助こそ!ご迷惑にならないようにしっかり雪村さんのいうこと聞きいて夜更かししないで早寝早起きしなさいよ!」
「ははは、大丈夫ですよ。今日だってこんなに早起きしてくれたんですから。千鶴も一人でお祭りに行くよりずっと安心して行かせられます。頼りにしてるよ、平助くん」
「へへへんっ!」
あぁ、雪村さんほんと優しいなぁ。
急な申し出だっていうのに快く平助のこと引き受けてくれて…。
「雪村さん、ほんとにご迷惑お掛けしてすみません。申し訳ありませんがよろしくお願いしますね」
「いえいえ、いつも千鶴をみてくださっているんですからこれくらい…。頭を下げなければならないのはこちらですよ。」
深々と頭を下げるわたしの肩をゆったりとした雰囲気でぽんぽんと叩くから顔を上げればにっこりと微笑む雪村さん。
「平助くんをお預りしている間、
苗字さんお一人になってしまいますが…、大丈夫ですか?」
「え…?あ、大丈夫ですよ?」
「ふふ…、そうですか…。」
雪村さんに心配されて、首を傾げると、柔和な表情で微笑まれる。
「まぁ、万が一、寂しくなったならいつでもご連絡ください。すぐに帰ってきますから。…でも、その心配もなさそうですがね」
話ながら一瞬視線をチラリと上げて、すぐにまた微笑んで、意味深に笑う雪村さんに首を傾げるばかり。
「千鶴にも母親が必要かと思っていた時期があって、苗字さんのこと、狙っていた事もあったんですがねぇ…、まぁ、私とでは少し歳も離れすぎてるし、無理があるかと思ってましたが…、ははは、キッパリ諦められそうですな!」
「?????」
「千鶴には別の形で頑張ってもらって苗字さんに母親になってもらうしかありませんな」
「?????」
はははははと、早朝の爽やかな空気の中、朝日を背負ったまぁるい頭の後ろをぺちんと叩きながら笑う雪村さんの言ってることが全く理解不能でいるわたし。
「さ、折角平助くんが早起きしてくれたのだから、早く出発するとしようか。」
ひとしきり笑った雪村さんは荷物を積み込んだセダンのトランクをバンっと閉めて運転席へとまわる。
「そんじゃあかぁちゃん、行ってくるな!」
「行ってらっしゃい!はしゃぎすぎて怪我しないようにね」
「名前さん、行ってきます!」
「うん、いっぱい楽しんでおいでね」
後部座席に乗り込む二人にそれぞれハイタッチをして見送る。
「では、苗字さん、行ってきます」
「はい!よろしくお願いします!」
バタンと閉まる運転席と後部座席のドアの窓にのぞくみんなの笑顔に手を振ってお見送り。
さぁ、わたしも今日 明日頑張ったらお休みだ〜!
いつも起きるくらいの時間、今日は外で全身に朝日を浴びて伸びをする。
ぃよし!戻って仕事行く準備しなくちゃね!
くるっと回れ右して千鶴ちゃんの家から自宅へ向かう。
てくてく歩いてほんの五分ほどの距離なんだけどね。
くるっと角を曲がって自宅前の道をてくてくてくてく。
ポケットに手を差し入れて近付く自宅の距離にあわせて玄関の鍵を取り出す。
……と、何故かいつの間に我が家の車庫にお車が…?
って!えぇっ!?
「なっ!?なん…っ!?」
「ぃよ」
車庫には何故かきっちり停められたとしくんの車と、
その運転席の扉にもたれてわたしが来るのを待ってたとばかりに片手を上げてニヤリと笑うとしくんが昇る朝日に照らされて煌めいていらっしゃいました。