平助の母親
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☆★夏休みの予定★☆
「千鶴ちゃん、すっかり遅くなっちゃってごめんね」
時刻は既に九時を回ったところで先に千鶴ちゃんの家に向かってもらう。
「いえ、このくらいの時間だったらいつもとそんなに変わらないですし、今日はパパももう少ししたら帰ってきますから!」
「あ、今日は雪村さん早いんだ?」
いつもは帰りの遅い雪村さんもお盆前とあって早めに帰ってこれるんだとホッとする。
「はい!パパも明日からお盆休みなので、またパパの田舎に帰るんです!」
「あ、そっか。雪村さんのご実家、お祭りもスゴいって言ってたもんねぇ」
「はい!毎年の楽しみなんです!」
ゴールデンウィークの時と同じように連休は必ず親子二人で空気のきれいな山奥にあるという雪村さんのご実家に帰る千鶴ちゃん。
「いいよなー、田舎があるってさぁ〜」
生まれたときから今の家しか帰るところのない平助にとって千鶴ちゃんのようにご実家や親戚のいる環境は何よりも羨ましいものだと思う。
そんな平助にふわりと可愛らしく微笑んで千鶴ちゃんがいう。
「ふふ、良かったら平助くんも行く???」
「えっ!?マジで!?いいのか!?行く行くっ!」
そのお誘いにものすごい速さで食い付く平助。
「え!?ちょ!平助っ!」
「いいだろかぁちゃん!オレも千鶴と一緒に夏祭り行きてーよ!頼むよ!」
「あいや、頼むよって…、わたしに言われても…」
そんな会話をしているうちに車は千鶴ちゃんの家に到着。
「ほんとに平助くんも一緒に来てくれたら私も楽しいんだけどな…」
そんなことを言いながら後部座席で荷物を抱えて扉に手をかける千鶴ちゃんに、「かぁちゃん〜」と懇願する平助。
「だ…、だけどそんな急に言われたって、
連れていくのはわたしじゃないんだよ?雪村さんだって折角のお休みに千鶴ちゃんと二人でって楽しみにしてるかも知れないじゃない…。ワガママ言っちゃダメだよ…」
「ちぇ〜っ…」
「…………、」
普段こんなにしたいことを主張したりしない平助のお願いを聞いてあげることができなくてキュッと胸が締め付けられる。
平助は平助なりに、いつもわたしがしてあげられる範囲の事をちゃんとわかってくれているから…。
だからこんな風にわたしの判断だけではどうにもできないことを言われてしまうと、できないことが悔しいんじゃなくて叶えてあげることができなくて申し訳なくなってしまう。
するとカチャっととしくんがシートベルトを外したかと思うと、
サッとドアを開けて外に出ていく。
「?」
外に出たとしくんを覗き見るとそこにはとしくんと、すぐ近くまで歩いてきている雪村さんの姿が見えた。
「あ、雪村さん…」
「パパっ」
わたしが雪村さんの姿を捉えて呟くと千鶴ちゃんも勢いよくドアを開けて車外に出ていく。
それについて平助までも降りていってしまったので私も慌ててシートベルトを外して外に出ようと思うん…だけ…、ど…っ…!
「シートベルト外れない〜っ!」