平助の母親
□97.
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☆★繋がる絆★☆
パシン…
乾いた音がしたと思ったら後からジンと広がる頬の痛み…。
「ってぇ…………」
目の前には目にいっぱいの涙を浮かべたかぁちゃんが唇を噛んで、メチャクチャ悲しそうな顔でオレを見上げてた。
「か…、かぁ…ちゃん…?」
「ゴメン…!」
なんでかぁちゃんがひっぱたいたのかワケもわかんねぇまま、次の瞬間にはオレの視界から消えてオレをぎゅっと抱きしめるかぁちゃん。
「な…、なんでかぁちゃんが謝んだよ…」
オレの肩に顔を埋めて離れないかぁちゃんに戸惑って、ひっぱたかれた頬の痛みとか、なんでかぁちゃんが謝ってんのかとか、なんか色々ワケわかんなくなってきた。
「わかんない…」
「は…、はぁっ!?」
「わかんないってゆうか…、ごめん、平助がそんな風に思っててくれた事とか…、平助の気持ちもわかるけど…、でも藤堂さんに酷いこと言わないで…!」
「なっ…!………なんでだよっ!?」
ぐいっとかぁちゃんの肩を押して叫べば、そこには涙でぼっろぼろになったかぁちゃんの顔があってギョッとする。
「だって…、だって、藤堂さんは悪くないから…、だから、藤堂さんだけを責めるようなこと…言わないで…」
そう言ってまた「ゴメンね」と言って溢れる涙を両手でごしごしと擦って泣いた。
「かぁちゃん…、」
目の前で子供のしぐさみたいにグスグス泣くかぁちゃんにどうしたらいいんだなんて思った瞬間見えたのは、かぁちゃん腕をぐいっと引っ張って行くやたらごっついダイヤルが三つもついた腕時計。
正確にはやたらごっつい腕時計が目立つ土方先生の手だ。
「!?」
「っ………、」
あっという間にかぁちゃんは土方先生の腕の中に抱え込まれていて、その早さに驚いたけど、オレの目の前にいる父親って名乗った男も息を飲み込んで驚いた顔をしていた。
「ったく……、いい歳して子供の前で泣いてんじゃねぇよ…」
呆れながら言うけど、かぁちゃんを抱えてもう片方の手でトントンと背中を擦る手つきは優しくて、かぁちゃんのしゃくり上げる息も自然と収まっていく。
「名前とあんたの間に一体何があってどうなったかなんてはっきり言ってどーでもいい。ただ、テメェの自己満足の為だけに気まぐれにホイホイ出てくんじゃねぇ。どんな事情があったにしろ一度手放したんならいつまでも未練たらしくしてんじゃねぇよ。」
かぁちゃんを脇に抱えながら顔を上げて吐き捨てるように言う土方先生の視線にドキッとしてだじろぐ男。
「あ……、あなたは…、なんで…、平助の教師なんじゃ…?」
そりゃそうなるよな…、
学校の先生がかぁちゃん抱き抱えて暴言吐いてんだからさ…。
「俺が何だろうがそれこそテメェにゃ関係ねぇ。だが俺はこの先こいつを守っていくって決めたんだ。お前みたいに手放したりはしねぇ」
真っ直ぐに相手の目を見てハッキリと言った土方先生の横顔を見てオレの頭ん中の記憶が…、土方先生との会話が甦る。
『オレ、いいと思うよ?かぁちゃん楽しそうだし。それに、かぁちゃんになんかあったときは土方先生が守ってやってくれるんだろ?』
『当然だ』
あの時の言葉通り土方先生はかぁちゃんを守るように抱えてて、悪いやつらからかぁちゃんを助け出した勇者みたいに見えて、なんか真っ直ぐでカッコよかった。