平助の母親
□96.
1ページ/2ページ
☆★思春期の少年に突きつけられる現実★☆
「平助っ!」
自分でも信じられないくらいの声がでてビックリしたけど、驚いたのは私だけじゃなく、その場にいた皆が目を丸くしてこっちを振り向いた。
「か…、かぁちゃん…」
中でも一番驚いているのは平助で、私の声に返事をするもののその声は弱々しく震えていて、よく見ればその表情も…、大きな瞳もうっすらと涙目になっているような気がして、その驚きは私の声に依るものじゃないと分かる。
平助が声にならないほど驚いているのは……。
「………藤堂さん…」
いう程の距離を走ったわけでもないのに呼吸が乱れて息が苦しい…。
平助の両肩を抱え込むように手を置いて、平助の正面に立つ彼に視線を向ける。
わたしの…、
今のわたしは彼にどんな表情を向けているんだろう…。
彼の名前を口にしたわたしは、何故彼が今ここにいるのか、
何故平助と対面していたのか、
息切れする頭では理解する事も儘ならなくてそれに続ける言葉が見つからない…。
そんなわたしの後ろにはとしくんがいて、わたしの左の肩と、平助の肩に乗せたわたしの右手の上に大きな掌を重ねてくれる。
ただ、それだけのことなのに、
どうしてだろう……。
息苦しく脈打つ鼓動がそれだけで速さを緩めてくれる…。
「あんたたち……」
走ってきたわたしの後に続いて来てくれた原田さんが、藤堂さんをはじめ、彼の後ろに控えている数人を見据えていつもの柔らかさを含んだ声を鋭く、低くさせた声で威嚇するように呟く。
「あんたたち…、あれだけ苗字には近付くなって…、付きまとうんじゃねぇって忠告したよな!?」
「は…、原田さん…?」
「苗字…、前にショールームに来たやつ、アイツだよ。それに…、あんた、ホテルで苗字と会ってただろ?」
いつもの悠々とした原田さんの面影なんてどこにもない、
所謂戦闘体勢状態の原田さんは怒鳴るように藤堂さんの後ろに取り巻く男性達に言い、それから視線を間近にいる藤堂さんへ向けてジッと見下ろす。
「あんた…、苗字の一体何なんだ」
原田さんの問いかけに誰よりも早く反応したのはわたしが抱え込むように肩を抱く平助。
原田さんの問いかけにゴクッと喉がなったのが聞こえて、その音につられてわたしは平助の顔に視線を向ける。
だけど真横からのわたしの視線になんて気にすることもなく、平助の瞳はまっすぐ藤堂さんを見つめたまま。
「先日は…、彼らがお仕事の邪魔をしてしまったようで…、申し訳ありませんでした…。わたしは藤堂高猷、名前の…、……いや、彼の…、平助の父です。」
そう言って柔らかく微笑みを向けられた平助はやっぱり目を大きく見開いたまま…、
「とうどう…、たか…ゆき…?」
彼の名前を呟く平助は、それ以上声を出すこともなく、ただ呆然と藤堂さんのことを…、
ううん、きっと平助は何かを見てるんじゃなくて、今ここに、目の前に映る光景を見せられている…。
一方的に、唐突に突き付けられたこの状況を把握できずにいるんだと思う…。