平助の母親
□94.
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くそ…、総司のやつ…!
一体何のつもりだ。あいつらと帰るなんて…。
いや、総司のことだ。特に深い意味なんざねぇだろう…。
大方、何の報酬もなしに今まで黙って顧問代理やってた事にフラストレーションが溜まりに溜まって近藤さんがいないのをいいことに最終日になって平助脅しやがったんだろう…。
いくら平助と千鶴がいるにしてもこのままあいつを名前の家に上げるなんざ俺が許さねぇ。
名前の隣の席は誰にも譲らねぇ!特に総司には!
明日の週末から始まる盆休みに備えて他の部活顧問達と全ての戸締まりを確認後、体育会系のノリで誘われた飲み会を断り車を走らせる。
あいつらが走って下校してからかなり時間くっちまったが、この時間ならまだ名前も家には帰ってきていないだろう。
名前が帰ってくる前になんとかあいつを帰らせねぇとな。
最悪飯食って行くにしろ、名前の隣にだけは座らせねぇ。それだけは阻止してやる。何がなんでもだ!
夕焼けの赤から迫る夕闇の中を一人、総司に対する士気を高め大通りを左折すると視界に見える数人の人影。
ゆっくりと速度を落として路肩に寄せて停車する。
ここから見えるのは前方をにやにやと見据える総司の後ろに平助、その後ろに千鶴が身を隠すようにへっぴり腰で並んでいる。
「なんだ?あいつら…」
ハンドルに身を預けてその奇妙な三人の様子を窺い見ると総司がスッと体をよけて平助の前から身を引いて前をあけ渡す。
とたんに慌てて背筋を伸ばして焦る平助に差し出される誰かの右手。
ここから見えるのはたったそれだけだったが、何故だかわからねぇが直感的に平助の正面に立っているだろう人物が誰なのか…。
脳裏に浮かんだ面影に、気が付けば俺は車から降りて勢いよくドアを閉めてそちらへと足を進めていた。
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