平助の母親
□94.
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☆★帰った先で見たものは…。★☆
「ゼー、ゼー…」
「はぁっ、はぁ…」
校門を出て最初の信号待ち。
膝に手をついて肩を上下させながら呼吸を整える二人の背中を両側に見下ろしニコニコの僕。
「あはは、君たち鬼ごっこはもう終わり?若いのにスタミナ足りないんじゃない?…でも、僕から逃げようと思うなんて、バカだよね」
ほんと、無駄な体力使っちゃってさ、
なんて笑っていえば、体を起こして空に向かって「なんなんだよもぉー」とか叫んじゃって。
ほんと、ムダが多いなぁ。
「あ…、あの…、沖田先生は…、どうして…?」
「ん?どうして一緒に帰るかって?」
息も絶え絶え苦しそうな顔で見上げる千鶴ちゃんの問いかけを先に言ってあげると
呼吸を整えながらこくんと頷いて僕を見上げる。
「どうして…ねぇ…。」
腕を組んであごを擦りながらチラッと千鶴ちゃんに視線を下ろせば、
ビクッと肩を縮こませて顔をひきつらせる。
そんな様子を見てますます面白くなる。
「どうしてってさ…、僕がそうしたかったからに決まってるじゃない。それとも、何かちゃんとした理由や用事がなきゃダメだっていうの?」
腰を屈めて千鶴ちゃんの顔を覗きこんで聞けば慌てて「いえっ!そんな…」なんて否定する。
「ふふ、そうだよね。それじゃあ行こっか。」
信号が変わり二人の肩をぽんっと叩いて足を進める。
「マジ意味わかんねーよ」とかぶつぶつ言ってる平助くんに時々振り向いて笑顔で「ん?」って聞き返せば毎回律儀に「なっ、なんでもねぇッス!」って両手をブンブン振って慌てる…、
っていうのを何度か繰り返しながら漸く平助くん家も間近となってきたところ。
大通りから二車線の脇道に入り更に住宅街の一方通行へと入る角を曲がったところで僕たちの足は自然に止まる。
「ねぇ、あそこって平助くんちだよね?」
以前一度だけお邪魔したことのある家の前には、いかにもお偉いさんが来ましたみたいな黒塗りセダンが停められていて、平助くんちの前の道を占拠するみたいに何人かの黒スーツの男たちが家の中の様子を伺うようにうろついていた。
「え…、マジだ。何、あいつら…」
「ヤのつくお仕事絡みの人かな?もしくは数字で893とか?」
アハハと軽く笑っていえば…。
「もしくはって両方とも同じ意味じゃねぇかよ!」
「あっはは、今時の中学生にも通じるんだね、893。でも…、そんな人たちが平助くんちに何の用だろうね?借金の取り立て?」
「ばっ!?バカゆーなっ!オレんちが借金なんかするわけねーだろ!!」
「へっ…、平助くんっ!」
あ〜ぁあ、平助くんが大声だすから八休さんたち、こっちに気が付いちゃったじゃない。
数人のうち一人が黒塗りセダンの後部座席の窓越しに何かを話してこっちを指差す。
この場合きっとこっちというより平助くんをっていった方が正しいかな。
「やっぱり平助くんに用があるみたいだよ。借金返済のために連れていかれちゃうのかな、かわいそうに」
「なっ!?」
「大丈夫、もしそうだとしても僕が守ってあげるよ。『こんな子連れてってもたいして何の役にもたちませんよ』ってね」
「はぁあっ!?」
そうこうしていると黒塗りセダンのドアが開いて中から一人降りてきて。
でも、降りてきた人はその他の子分達とは全然違ってちっとも怖そうな感じはなくて、寧ろ穏やかな感じ。
「あの人がボス?なんか全然ヤクザっぽくないね。」
近付いてくるボスに狼狽える二人をよそにじっとその男の顔を見て待ち受ける。
「な、なんでこっちくんだよ…、マジヤバくね?この状況…」
「へ…、平助くん〜」
完全に怯えて僕の後ろに順番に隠れちゃう二人。
ちょっと…、あの人のターゲットは僕じゃないと思うんだけど?