平助の母親

□93.
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「遅いよ、平助くん。」



体育館の全部の扉の戸締まりと既に空っぽになった部室の戸締まりを済ませて職員室に鍵を戻しに来ると、職員室の窓際にもたれて腕を組む総司が一言。



「………、別に待っててくれなんてオレ言ってねーし…」



ボソッと呟いたはずなのに、その呟きはしっかりヤツの耳に届いたようで微笑みを浮かべているはずなのに漂う空気はめっちゃくちゃ重い!でもって黒い!




「それじゃあ行こっか。」

「い、行くって…」

「もちろん君んちに決まってるでしょ?他にどこ行くっていうの」

「…………。」




マジかよ…。
どうしてこーなるんだよ………



「お、オレ、千鶴と帰るし、道場寄らねぇと…」




持ってきた鍵を所定の位置に掛けるとまだ鍵の掛かっていないフックを見つけてとっさに言えば、総司のクスッと鼻で笑う声が聞こえた後に廊下を歩く足音が近付いてくるのが聞こえてきた。



「迎えに行く必要はなさそうだね。」




総司が更ににっこりと笑ってそう言うと、ガラッと扉が開き土方先生が入ってきて、その後に続いて制服に着替えの済んだ千鶴が入ってきた。



「あ!平助くん!おつかれさま!」



オレを見つけていつもと変わらない笑顔で声をかけてくれるのはいーんだけどさぁ…。
はぁぁ…。このタイミングじゃもう逃げ場もねぇじゃねぇかよ…。

がっくしうなだれてため息つくオレの隣で道場と部室の鍵を掛けてキョトンとした顔で首をかしげる千鶴に背後からぽんっと肩に手を置く沖田総司。



「千鶴ちゃん…、だっけ?今日は僕も一緒に帰らせてね。」

「え?え、え?え?」

「さ、早く帰るよ。お腹すいたね、今日の晩ごはんは何にしようか?」


「おい、ちょっと待て総司」



総司に肩を押されて何もわからないまま廊下へと足を進められ焦る千鶴の進行方向に土方先生が先回りして入り口の扉に手を掛けて総司を睨んだ。



「あ、土方さん、おつかれさま、じゃこれで。」

「じゃあこれで、じゃねぇだろうが。なんでテメーがこいつらと一緒に帰る必要があるんだ。用が済んだんだったらさっさとてめぇの家に一人で帰りやがれ」

「やだなぁ、ガッコーの先生がそんな乱暴な言葉使って。生徒が真似しちゃったらどうするんです?」



ねぇ、と千鶴に顔を寄せてにっこりわらう総司の襟首を猫の首を掴むように引っ張りあげて千鶴から離す土方先生。



「うるせぇ!俺がどんな言葉遣いだろうが俺の生徒にお前みたいなひねたヤツなんざいねぇんだよ!」

「あーもぉ、そんな耳元で怒鳴らないでくださいよ、うるさいなぁ」



土方先生と総司がやいのやいの言い合いしはじめた隙に千鶴の手をとってさっと職員室から抜け出す。



「きゃっ!」

「あっ!ちょっと!」

「ヤベっ!急げ!千鶴っ!」



俺が突然手を掴んで引っ張ったから驚いた千鶴の声に総司が気付いて廊下に出てくる。



「僕から逃げられるとでも思ってるの?」

「おいテメーら!廊下を走るんじゃねぇっ!」




オレと千鶴の後を追っかけてくる総司の声といつものセリフの土方先生の怒鳴り声が背後からものすごい勢いで迫ってきて、二人で手を繋いで、なんでかわっかんねぇけど笑いながら下駄箱目指して猛烈ダッシュした。





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