平助の母親

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土方先生がかぁちゃんと結婚するって宣言して、それに対していいんじゃねぇの?って事になってから数日…。

別に何が変わったって訳でもなく夏休みの日々を送るわけだけど…。




「来週からお盆休みだし、夏休みの練習は今日でおしまい。みんなよくがんばってこれたね」



左手に持ったトレーニングメニューのファイルを閉じてにっこりと微笑むのは臨時顧問の沖田総司。



「二学期からはまだどうなるかわからないけど、いい先生に恵まれるといいね。いつ試合になってもいいように、休みだからって気を抜かずに体鍛えといたほうがいいよ」



そう言って笑いながら床にへばる俺たちを見下ろす顔はほんとに悪魔のような黒さだ。




「さ、もうすぐキレイな夕日も沈む頃だし、暗くなる前に帰ろうね」



メチャクチャハードなメニューがぎっしりのファイルをパンパンと叩いてへたりこんでいる俺たちを急かすようにどんどん追い込んでくる。
土方先生の事鬼教師なんて言うけど、こいつの方がよっぽど鬼だ。
鬼っつーより鬼畜だ鬼畜っ!




「何か言った?ヘースケくん」

「っっ!!?」




えっ!?オレ言った?口に出して言った????

メチャクチャ焦って慌てていると黒いオーラを背負った総司がゆっくりと近寄ってくる。
禍々しいオーラを纏って!




「ふふふ、そんなに怯えて…。そんなに僕に何か後ろめたいことでもあるの?」

「は?」

「しょうがないなぁ…、まぁいいや。今日は最後の日だしね。許してあげる。そのかわり夕飯ご馳走してよね」

「は?」

「何の見返りもなく君たちのおもりしてあげたんだから、
それくらいのご褒美があってもおかしくないでしょ?」

「え?」

「前に名前ちゃんが作ってくれたお好み焼き、おいしかったなぁ〜」

「え、や、っつーか、ご褒美請求すんだったら校長先生にだろ?フツー!なんで俺に言ってくんだよっ!?」



完全にターゲットをオレにロックオンした総司は黒い笑みを浮かべながらオレを見下ろす。
他のやつらはそんな総司の隙をついて「お疲れさまでしたぁ〜っ!」とかいってそそくさと帰りやがるっ!


は、薄情者ぉ〜〜〜っ!!



「あれ、みんな部長を見殺しにして帰っちゃうなんて…、平助くん、仲間として大切にされてないんだね。可哀想に」

「なっ!?可哀想にって!その顔全然そう思ってねぇだろ!」

「ん?」

「ん?じゃねぇよもぉ〜!!」



もう何言っても噛み合わねぇ!
両手を後ろについて呆れて天井に向かって吼えてると、いつの間にか体育館の電気がバンっと独特の音を立てて消える。



「のわっ!?」

「ほらほら、早く来ないと戸締まりしちゃうよ」



いつの間に移動したんだ!?
出入り口で夕焼けを背負って鍵をチャラチャラ揺らしながらニヤニヤと笑う総司は絶対オレで遊んでやがるっ!



「鍵、ここに挿しておくから戸締まりしたらちゃんと職員室に届けにきてよね。僕も帰りの準備して待ってるから」



にっこり。



いや、



にやり。



不敵な笑みを残してさっさと校舎へと歩いて行く総司の背中に言葉も出なかったけど…。





「だからなんで一緒に帰るみたいになってんだよぉぉぉおっ!!!」





すっかり一人になった体育館にオレの雄叫びだけが反響した。
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