平助の母親
□92.
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☆★忍び寄る存在★☆
翌日のショールームでは原田さんのデスクに群がる男性スタッフの人垣から盛り上がるどよめきが凄かった。
「おい苗字、お前も早くブログ更新しろよ?週末の授賞式、メーカーのホームページに公開されてるぞ!」
「名前ちゃんもばぁっちり写ってんじゃねぇか!うほぉー!」
………、うほーって永倉さん…。
椅子を少しだけ回転させて背後で大騒ぎの皆さんを横目に小さくため息を付くと、今度は事務所の入り口が開いて山南部長が登場する。
「おやおや、皆さん、午前中から仲のよろしいことで。今日は開店休業ですか?」
山南部長には朝の時間帯からサービス工場を空けっぱなしにしてショールームで油を売っているように見えたのか(実際そうなんだけど…)チクリと一言言われとたんに小さくなる人垣。
「ふふ、まぁ皆さんのお気持ちもわからなくはないですがね、こういうことは休憩時間にした方が良いかと。」
チラリとみんなに向ける視線が…、
丸メガネがキラリとこわいでしゅ…。
そんなこと思って目が合わないように椅子を回転させて机に向き直ろうとした瞬間、
「ところで苗字さん?」
なんて声をかけられて思わず肩が盛大に跳ね上がってしまう。
背後に近寄る気配に、特に何も悪いことしたわけでもないのにビクビクと振り替えれば、にっこりと微笑み見下ろされる。
「は、はぃ…、」
「先日も申し伝えましたが、授賞式のデータ、届いてますね?」
「は、はい…」
「朝の準備でお忙しいとは思いますが、なるべく早めにブログの更新お願いしますね。カザマコーポレーションさんはもう昨日の時点で更新されていますから…」
「あぁあ、そういや…、カザマんとこが更新したブログに何故かお前の写真も載ってたぞ。しかも結構なアップ写真。風間とツーショットみたいな感じで。」
山南部長がまだ話しているのに途中で被せてきた原田さんがiPadを持ってわたしと山南部長の目の前に差し出した。
その画面に写し出されていたのは紛れもなくわたしの顔で、しかも見る人によってはわたしと風間さんが仲睦まじく会話しているような…
っていうかわたしが話しかけてそれに風間さんが頷いているような写真…。
その写真の後に続く文面も、何故か私についての内容で………。
「ブログ更新者、不知火匡。あいつ一体何考えてんだか…。こいつがブログアップしてからのうちのアクセス数がものすげぇ増え方してるんだが…。うちの宣伝してどーすんだよ…。バカだなあいつ…」
ため息を漏らしながらもアクセス数をチェックする画面を見て何やら嬉しそうな原田さんに、山南部長も複雑そうな声で同調する。
「ま、あちら様にどういったお考えがあるかは別として、うちのページにアクセスしてみえる方が増えるのは良いことですし、これから苗字さんが書くブログによって、更にうちの顧客が増えるかも、という可能性も出てくる訳ですから…
」
そこまでいうとキラリとメガネを反射させてわたしに視線を向ける。
「なるべく早めに、素晴らしい更新を期待してますからね!」
「……っ!?……は……、はぃ〜………」
ぽんっと肩に手をおかれてひぃっと返事をすればくすっと笑って事務所の奥の扉へと姿を消す山南部長。
………、
はぁ………。
なんかもぉ……、肩にかかる重圧が半端ないんですけど……。