平助の母親

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「つまり、平助の部屋で…」




としくんの言葉を最後まで聞かずに平助の部屋をめがけて階段をかけ上がる。
二人が恋人同士として仲良くしてるのはそりゃもうこの上ないほど嬉しいことだけど…、

たいして多くもない階段を上る間に頭の中でぐるぐるぐるぐるいろんな事が駆け巡る。

そう、
仲がいいのは良いけれど、
だけど…!



「千鶴ちゃん!」



バンッと平助の部屋の扉を開けるとそこに見えた光景は…。



「バカ名前っ!いきなり押し入るなって言っただろう…が…」



扉を開け放ったわたしの背後でとしくんが何か言ってたけれど、目の前にある二人の姿を目の当たりにしてわたしはその場にへたりこんでしまった。



「な………」



頭上から降るとしくんの声。

呆然と固まるわたしたちに気が付いたのか、そこで眠る千鶴ちゃんがごしごしと目を擦りムクッと体を起こしてこちらを向いた。



「ん………。あ…、あれ?ここ…平助くんち………」

「ち…、千鶴ちゃん………」



目を擦りながらショボショボと辺りを見回してむにゅむにゅ呟く千鶴ちゃんに声をかけると



「あ…、名前さん、帰ってたんですね…、おかえりなさい」



とまだ寝起きの顔でふにゃりと笑った。



「え…、と、あ……、ただいま…。」



ついつられて普通にただいまと返してしまったけれど、



「っ!…じゃなくて千鶴ちゃん!大丈夫!?何もされてない!!?」

「ぇ………???」



へたりこんだ姿勢から四つん這いで千鶴ちゃんのもとへ近付き肩をガクガクと揺らすと千鶴ちゃんの横でごろ寝していた平助が目をさまして千鶴ちゃん同様目を擦りながらムクッと起き上がった。



「んぁあ?……なんだよかぁちゃん…、もぉ帰ってきたのか…。はえぇんじゃねぇの……?」

「は…、はえぇんじゃねぇのはこっちのセリフでしょぉおがぁっ!」



千鶴ちゃんの肩を抱き、平助に向かって言えば、二人ともビックリして目をまんまるにしてポカンとわたしを直視。



「あんたたちまだ中学生でそんなっ…、そのっ…!」

「落ち着け…」



顔を真っ赤にしてわぁわぁ言うわたしの肩にポンと手を置いてとしくんがわたしを宥める。



「お前ら二人でなにやってたんだ?」



わたしの肩に手をおいたまましゃがみこんで平助と千鶴ちゃんに視線を向けると二人は姿勢を正して顔を見合せ少しバツの悪そうな顔をする。



「なにやってたって…、俺たち別に…」



千鶴ちゃんにチラッと視線を向ける平助の言葉に続いて千鶴ちゃんも少し俯き加減にあごを引いて肩をすくめながら言葉を続ける。



「あ…、あの、すいません!私…、昨日の夜からずっとここに泊まってしまったみたいで…、ほんとにすいません!」

「えぁっ!?いや、すいませんって!…そうじゃなくて!大丈夫だったの!?何もされてない!?」



ガバッとわたしに頭を下げて謝る千鶴ちゃんの肩を掴んで顔を覗きこんで聞けば、これまた目を丸くキョトンとさせて首をかしげる。



「…、あ、あの、…何か…って…?」

「や、何かってほら!ヘースケに襲われたりしなかったかって!」

「っはぁぁああああ!?」



勢い余って口走ればわたしと同じように顔を真っ赤にした平助が前のめりになってわたしに抗議し始めた。



「そ!そんなこと、オレがするわけねぇだろ!?」

「うそっ!?」

「ウソじゃねぇよ!昨日は宿題したあと二人で遅くまでゲームしてたらそのまま寝ちまってたんだよ!」



バンバン床を叩いて抗議する平助の向こう側には確かにDSが転がってて…、
千鶴ちゃんの背後にもピンク色のDSが…。



「ゲ…、ゲーム…」

「そうだよ!二人でやってたけどなかなか中ボス倒せねぇからレベル上げしてたらいつの間にかそのまま寝ちまってたんだよ」



口を尖らせてブチブチふてくされて言う平助になんだか肩の力が抜けて千鶴ちゃんの肩を掴んでいた手もスルッと落ちる。



「あ…、そ、そうなんだ…、ゲーム…」




ホッとしたけど…、
や、でも、床の上で二人、顔を寄せあって手も…、繋いではいなかったけれど、指と指が触れあうくらいで…、

そんな風に寝てたらさ……、




「はぁ……」

「なにため息ついてんの…」



つい出てしまったため息。
ジト目で睨んでくる平助に、ちょっとでも疑ってしまった自分が申し訳なくて反省する。

で…、でも、ほら千鶴ちゃんかわいいし、何かの拍子でそういう雰囲気とかになっちゃったらとか思ったらさ、
自分の子とはいえ、平助も男の子な訳だし?





……………。








「うん!よかった!何事もなくて!」



あはっと笑って見せれば一瞬周りの三人がぴしっと固まる空気。






……………。






「ふふっ!」



その空気も次の瞬間には千鶴ちゃんの笑い声で解消され、続いて平助も呆れたような声で



「てかもーマジなんなんだよかぁちゃんさぁー、寝起きでいきなり訳わかんねぇ事言われてマジビビるっつぅの!」

「…や、だってさぁ…、……ねぇ?」



同意を求めるようにとしくんにチラッと視線を向ければ、



「てかさぁ、土方先生こそなにやってんの?かぁちゃんのちちバンドなんか抱えちゃってさぁ」

「…………、」



平助の言葉に従いとしくんの顔からその手に抱える物へと視線を下げれば、そこにはさっきバッグから取り出して洗濯機に入れようと思ってたわたしの洗濯物………。



「っ!きゃぁあ!なっ…なんで………!?」



バッとそれらをとしくんの手から奪い取る。



「な…、なんでってお前が…」

「かぁちゃんと土方先生こそほんとなにやってんだよって感じだよ、なぁ?」



にやにやクスクス笑う平助と千鶴ちゃんの前でわたわたと慌てる大人二人…。



「お…、お前が俺に押し付けたんだろぉがぁ!おいお前らっ、俺を変態扱いすんじゃねぇっ!」



洗濯物をふんだくってとしくんの腕をバシバシ叩くわたしと、平助たちに怒鳴り散らすとしくんは、
きっとこれ以上にないほど真っ赤な顔をしていたと思う………。



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