平助の母親

□86.
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パーティーの後、俺に話を聞いてほしいと言った名前は先程の出来事なんかなかったかのようにいつも通りの自然な振る舞いでよその会社の重役と次々に挨拶を交わし、そのさりげない華やかな雰囲気に名前の周りはあっという間に挨拶の順番を待つ人だかりとなっていた。



そんな目まぐるしい状況でもしっかりと相手の目をみて名刺交換する名前の笑顔に、
いつまでも思い詰めている自分はなんて下らねぇんだと呆れてしまう…。



自分に対する苛立ちと、プライベートの感情をビジネスに影響させることのない名前の大人としての姿勢を目の当たりにして、俺の中の感情は渦を巻いて言い様もない澱んだものに変化していく。



一通りの挨拶を終え食事の並んだテーブルへと戻ってきた名前達。



あの男とのやり取りなんて微塵も感じさせない名前を前に、俺は平常心を保っていられる程の自信なんかなくて下手な言い訳をして席をたった。






部屋に戻りネクタイを弛めソファーに腰かけタバコに火を点ける。
一服して背を預け天を仰ぎ、目一杯吸い込んだ煙を一気に吐き出し天井に立ち上ぼり消え広がっていく煙を見届け瞼を閉じる。



目を閉じれば浮かんでくるのはさっきみた名前の事ばかり…。



昔の男に手を取られ、抱き寄せられ、互いを懐かしむような笑みを浮かべ会話を交わす二人…。





俺の知らない過去の二人…。






馬鹿馬鹿しい……。
この俺が……。

なに女々しいこと考えてやがるんだ……




瞼を開け見える天井には煙草から立ち上る煙が充満する空気の流れ。


俺が大きくため息を吐くとその流れが更に動きを見せる。




ぼぉっとその流れを見るでもなく視界に入れていると部屋のインターフォンが
鳴らされる。




……、随分早いお出ましじゃねぇか…。





少しでも気持ちを落ち着けようと早々と退散してきたってのに、こんなに早く来られたんじゃ何の意味もねぇじゃねぇか…。



普段通りに振る舞う名前を前に、俺は落ち着いて平常心でいられるのだろうか…。



わだかまる気持ちのままソファーから背を起こし重い腰を上げ、渋々扉へと足を向けた。
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