平助の母親

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原田の背中越しに現れた、
俺が選んだドレスを身に纏った名前。

俺のイメージ通り、シンプルだが清楚なデザインも、優しい光沢を放つシルクの素材も、
全てが名前の為に用意され作り上げられた、これ以上にないほどの完成されたドレスを着こなした名前…、

その名前そのものを表す優しさに満ちた雰囲気に目を奪われた瞬間…、


俺は、自身の目を疑いたくなる光景を目の当たりにした…。




「名前っ!?」




見知らぬ男に呼ばれ、手首を掴まれた名前は、あっという間に男に腕を引かれすっぽりと男の胸に抱き寄せられる。


「なっ!?」



俺の目の前で驚きの声をあげる原田。
声こそ上げはしなかったが、俺もきっと原田と同じ顔をしているだろう。


その場から動くこともできずに大の大人が二人揃って男女のやり取りを目の前に佇む姿はどんだけ滑稽なんだ。

男の腕に抱かれた名前はすぐに身をよじり男から離れたが、その後会話を交わす二人の表情は親密なものとは言い難いものだが時折見える微笑み……。





やがて男の背後からやって来た人物により、その男が名前とどういう関係なのかを知ることになる…。



「藤堂さま、お時間が押しております」



はっきりとした口調は二人から離れているのに俺の耳にしっかり届いてその名を記憶させる。




とうどう………




『I pray for your happiness forever.From Todo.』



あの指輪に刻まれたメッセージ…。
その送り主の名……、





「わたしも行かなくちゃ…、失礼します」




名前の声にハッと我に返ると、名前の大きく見開いた瞳が真っ直ぐ俺の視線を捕らえる。

決して近いとは言えないこの距離でも、名前の瞳が不安で揺れているのが目の前で見ているかのようにはっきりとわかる。

俺の目も、名前と同じように揺れているのだろうか…。



「名前…、また…、また会えるだろうか…?」



俺たちの存在に気が付かないのか、男は神妙な面持ちで名前の背中に問い掛ける。



「……できるなら………、」

「……………」



男に声をかけられても振り返りもしない名前は、揺れる瞳を俺からそらせずにいるのか不安げな表情で唇をきゅっと噛み締める。
男は名前がそんな表情をしているとも知らずに言葉を続ける。



「できるなら…、次は平助とも…」

「ごめんなさい!失礼しますっ!」



きゅっと噛み締めた唇を開き男の言葉を遮りこちらへと走り出した名前…。



「名前っ!」

「藤堂様、」

「っ………!」



その場から駆け離れていく名前の背に手を伸ばし名前を引き留めようとする男だったが、凛とした口調で呼び止められその場で立ち止まり伸ばした手をゆっくりと下げる。




「苗字っ!」




男から離れて逃げるように俺たちの前まで走ってきた名前だったが、原田の呼び掛けにハッと顔をあげると一瞬不安げに眉を下げたが、次の瞬間にはぎゅっと目を瞑り、勢いよく俺たちの前を通りすぎていく。



「お…、おい、苗字っ!」



駆け抜けていく名前の背に声をかける原田をおいて俺も名前の後を追って駆け出した。



「あっ…!土方さんまで………、…………ったくしょぉーがねーぇな〜」



そんな原田の呆れた声が聞こえたが、今の俺には名前の背中を追いかけることしか頭になかった。
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