平助の母親

□84.
1ページ/2ページ

☆★知らない過去だから不安になるし気になってしまう★☆QLOOKアクセス解析





眩しい光と盛大な拍手の中で原田の隣に立つ名前はスピーチを終え優雅なしぐさで一礼し、再び見せた表情には一仕事を終え肩の荷が降りたようなホッとした笑顔でありながら、その綺麗な微笑みに魅せられた会場から一際大きな拍手が鳴り続いていた。

鳴りやまない拍手の中、インポーター代表取締役の激励の言葉により表彰式は無事に幕を降ろした。




「いやぁ〜。素晴らしい!実に素晴らしい表彰式だったよ!」



幕が降りても尚、舞台に向かって拍手を送り続ける近藤さんの目尻には、よく見ればうっすらと涙が滲んでいる。



「ははは、何も泣くことはないだろう」

「な、泣いてなどいないぞ!?俺はただ、感動しているんだ!」



盛り上がる二人をよそに、会場の照明は全体を明るく照らし、円卓の上には次々と懇親パーティの準備が進められグラスや皿が並べられていく。



「まったく……、まるで苗字さんの父親みたいだな」



あきれて言う松平先輩だが、その顔はやはり柔らかい笑顔だ。

二人がそんなやり取りをしているうちに、
舞台袖から続々と今日の主役達が姿を表し各々のテーブルへと戻っていく。
その中で一際俺の目を惹くのはやはり名前の存在で…。
だが原田の後ろを控えめに歩く姿はどこか疲労感を思わせるような、
いつもの笑顔はなくうつむき加減で原田の足元を、一点を見つめているような生気の感じられない表情だった。




「おっ!戻ってきたぞ!」



二人の姿を見つけた近藤さんが席を立ち「苗字さん、原田くん!」と二人に呼び掛け迎え寄ると、片手を軽く上げ応える原田と顔を上げ微笑んで応える名前。

その笑顔もやはり何となくだがいつもの輝くような笑顔ではなく、どこか控えめな笑顔だ。



あの壊れた指輪の存在が………




日頃意識していない何かを思い起こさせたんだろう……。




名前に指輪を送った相手……。
平助の父親…。


二人にどんな過去があるのか俺にはわからねぇ。
だが、平助が生まれる前に終わった関係なんだろう…。

だが………、


『永遠にあなたたちの幸せを願います』


二人の終わりはお互いの感情によるものじゃねぇ……
何か理由があって離れなければならなかった…。

そうだとしたら、今も心のどこかで相手を思っているのだろうか…。
俺の問いに答えた名前の言葉は本心なのだろうか…。

勿論、本心であってほしい。信じたい。

だが、あれからの名前の表情はどこか浮かない。
笑顔であっても一枚フィルターを貼ったようなもどかしさを感じでしまう。

やはり指輪が壊れてしまったことで何か…、
心の支えのようなものがなくなってしまったように思っているのだろうか…。
だとしたら、今でも…、
自分では分かっていなくても、無意識のレベルで相手を待っているのだろう…。





「いやぁ〜。名前さんも原田くんも!素晴らしいスピーチだったよ!」

「ありがとうございます、でもやっぱこれだけのギャラリーの前だと緊張しねぇ方がおかしいな、な?苗字?」

「それはもぅ!ほんとに緊張しました!」



胸をおさえて言う名前の
表情に一同が笑い声を上げる。



「ま、これで俺らのミッションは完了したわけだし。テーブルの上もパーティ仕様になってきたことだし?旨いもんたらふく食って呑もうぜ!」



バンっと名前の背中に渇を入れるように平手打ちする原田に



「こらこら、大事なプリンセスに手を出すんじゃないよ。それに君たちのミッションはまだ終わりじゃないだろ?ゆっくり座ってなんかいられないからな」



にやっと原田に含み笑いを見せる松平先輩の顔を見てあからさまにイタイ表情を浮かべる原田は名前の背中を叩いた手をそのままに



「じゃ…、じゃぁ俺たちは着替えてくるとするか。」



ぎこちない笑顔を貼り付けて名前を連れて会場を出ていった。




「……、トシ?行かなくていいのか?」

「あ?………あぁ…」



二人が舞台から戻ってきてもイスに座ったままだった俺に何かを感じたんだろう近藤さんがイスに腰掛けながら俺の顔を覗き込むように訊ねてきた。



「どうしたんだ?何かあったんじゃないか?」



普段のほほんとしているようで人の心情の変化に鋭いというか…。

俺と近藤さんとの間に隠し事はしねぇ

そうは思っていてもこれは名前の過去の話…。
俺の気持ちの問題じゃねぇ。



「いや?なんもねぇよ。ちょっくら一服でもしてくるよ」



心配そうに眉を下げた顔で俺を見上げる近藤さんに煙草を吸うジェスチャーをして見せて会場の扉へと席を立った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ