平助の母親

□83.
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彼はわたしが身籠ったことをとても喜んでくれて、まだお腹も大きくなってないのにわたしの身体をすごく労ってくれて………。

何度も何度も、『ありがとう』って、
必ず幸せにするって言ってくれて、

わたしの指のサイズに合わせて作ってくれたエンゲージリング


だけど、その指輪がわたしのもとに届く頃にはわたしたちは会うことすら許されなくなっていて……。

本当だったら…、藤堂さんから手渡されるはずだったのに……。
お腹の膨らみも目立つようになった頃、
わたしの前に現れたのは彼の…、
藤堂さんの執事…。


個人的な行動を許されない状況の藤堂さんに代わって出来上がった指輪をわたしに手渡すと、彼の今の状況と今後はとてもじゃないけどわたしなんかが彼に近付くことなんてできないという事を伝えられる。


最初に引き離されたときにそんなことは覚悟していたけれど、やっぱり改めて他人から言われてしまうと想像以上にショックで言葉もでなくて、
ただ受け取った小さな箱を両手で持ったまま佇むわたしに執事の男性から聞かされた藤堂さんの本当の気持ち…。


今の自分じゃどうしようもできない…、
わたしに対する謝罪の気持ちと

指輪に刻まれた彼からのメッセージ

『I pray for your happiness forever.From Todo.』




「永遠にあなたたちの幸せを願います……」


としくんの呟いた声に手に持ったお守り袋をきゅっと胸の前で握りしめると、より一層感じるリングと離れてしまった石の感触。



「……今でも、待ってるのか?」



その言葉にハッとしてとしくんの顔を見上げる。



「………いえ。もう………。」



それだけしか言葉にならなくてすぐに俯いてしまう。
だってほんとにわたしと藤堂さんのいる世界は違い過ぎて、一緒に時を過ごしたことの方がおかしかったんだって納得してしまうくらいなんだもん…。

いくら待ったって彼が再びわたしの前に現れることなんてない。
そう思ってこれまでやってきた。
きっと藤堂さんもそう思ったからこそこのメッセージを指輪に刻んだんだと思う…。



「………。」

「…………。」



お互い無言になってしまって、としくんの腕時計の秒針が時を刻む音だけが部屋に響くように聞こえる…。




「そろそろ時間だな…」



静かに呟くとしくんの声が沈黙を破り、そっとわたしに背を向けてドアノブに手をかける。



「……っ」



わたしの息をのむ気配を感じたのか肩越しに優しい微笑みを覗かせてカチャとドアを少しだけ開ける。



「ほら行くぞ。カンペ、忘れんじゃねぇぞ」


「あ…、……はぃ…」



慌てて鞄の中からクリアファイルを取り出しメモ用紙に書いたカンペを小さくたたんでジャケットのポケットに入れる。

そんなわたしの様子をドアの外に立って見守っていたとしくんは慌てるわたしにフッと笑って、



「部屋のカードキーも忘れんなよ」



ため息混じりに笑いながら言う言葉に、
少しだけ…、
なんとなく気持ちが救われたような気がした…。



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