平助の母親
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「ところで授賞式で向こうに一泊するんだろ?平助はどうするんだ?」
苦笑いを収めてきりっとした先生の表情を向けるとしくん。
「あ、はい…。わたしもそれが心配なんですけど…。平助は一日くらい一人で留守番できるって…。」
視線を落として俯けばさっきまで拗ねていた沖田くんが
「一日くらい大丈夫だよ。平助くんももう中二なんだし、寧ろたまにはいいんじゃない?一人で過ごせる夜があった方が」
言葉尻をニヤリとした表情で言う。
「そ、そうかなぁ…」
「そうだよ。男の子はハメをはずせる環境もたまには必要なんだよ」
「ハメを…」
「おい総司!いい加減なこと吹きこんでんじゃねぇ!」
「じゃあ土方さんが名前ちゃんの代わりに平助くんのお守りでもしてあげたらどうです?そんなに言うんならっ」
呟くわたしを前に一くんの頭上から沖田くんに向けて怒鳴るとしくんにカウンターに頬杖をついて一くんの前からとしくんにニヤリと微笑みを向ける沖田くん。
「生憎だが俺も授賞式に出席することになってんだよ」
「えっ!なんで!?国産ボロ車の土方さんなんて全く関係ないじゃない!」
ふんっとドヤ顔のとしくんに驚き沖田くんはカウンターからからだを上げる。
「国産ボロ車……、」
沖田くんの言葉を眉間に縦皺を刻んで苦い顔で呟くも、すぐに体勢を立て直しふんっと鼻で笑う。
「ふっ、俺は確かに国産車ユーザーだがここの社長から直々に同席しろって頼まれてんだよ。残念だったな!」
物凄く高圧的に沖田くんを見下ろすとしくんにくっと眉をひそめてとても悔しそうに表情を歪める沖田くん。
「ここの社長って事は…。近藤さんも行くの?」
ばっと振り向いて近藤さまへと詰め寄る沖田くんにたじろぎながらも「あ、あぁ、そうだよ」と答える近藤さま。
「っじゃあ僕も連れてってくださいよ近藤さんっ!」
「い…、いや…、俺に言われてもだな…」
つかみかかる勢いに困り果てた様子の近藤さま。
「総司、いい加減にしろ。近藤先生を困らせてどうするのだ」
それまで黙っていた一くんが沖田くんの首根っこを掴んで近藤さまから沖田くんを引き離す。
「そもそも車を持っていない、買う意思もない俺たちがここで飲み物を振る舞って頂けるだけでもありがたいことなのだ。これ以上我が儘を言うな」
「くっ…、一くん…。そんなこと言って…。君は名前ちゃんの晴れ舞台、見たいと思わないの?その場で祝福してあげたいと思わないのっ!?」
今度は一くんにつかみかかりそうな沖田くんに表情を変えることなく
「ならぬものはならんのだ」
と静かに凛と答える一くんはどこぞの侍だろうか…。
「ふっ、諦めろ総司。名前の応援は俺たちだけで充分なんだよ。ガキは指でもくわえて布団で寝てろ」
「バスケ部の顧問…、引き受けたのに…」
勝ち誇ったように言うとしくんにぼそりといじけた口調で呟く沖田くん。
「そ…、それとこれとは話は別だろう!」
「別じゃありませんよ、僕はそっちの要望に文句も言わずに応えてあげてるっていうのにっ!」
う〜ん、やっぱりこの二人が会話するとエンドレスなんだなぁ。
と思う…。