僕のおねえさん
□40.
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うわ…、
うわうわ………、
「うわーーーーっ!!」
「っ!!今度はなんだよっ!?」
意を決して乗り込んだ人生初の男部屋は、私の想像を遥かに超えた未知の空間…、
って程でもないんだけれど。
「すっ…、すみません、つぃ…」
土方さんの部屋って…、
なんか思ってたのと違うというか、でも…?想像通りというか…?
お部屋自体はおしゃれで、いかにも良い物にこだわりのある人のお部屋、
って感じで統一感のあるインテリアなんだけど…。
土方さんの人柄らしいセンスのいいお部屋だと思うんだけど…。
「散らかってるが適当にその辺、荷物置いてくれ」
さっき買ってきた本をテレビの前に置いて、私にはその辺に置けとカウンターキッチンの前に置かれたスツールを指して指示する。
「あ、はい。……って…………」
言われたとおり荷物を置こうとそのスツールへと視線を向けるけど…、
「………。」
えっと………。
「あの…。」
「あん?」
「ここ?…ですか?」
「あぁ。そこに置いとけ」
「え…?でも…、」
だって、
そこには山積みの本が乗っかってて、その上に置けって…、事…?
本の上に荷物を置くなんて…、
戸惑って動けずにいると両手で持っていたカバンがバッと奪われ目の前の本の上にポンっと置かれる。
「よし…、それじゃ〜早速作ってもらおうか」
カバンを置いた土方さんは、今度は私の肩にポンっと手を置いてカウンターキッチンの中へと背中を押す。
「ぇ、ぇええ?な、なんですか、なんですか??」
「なんですか?っておまえ、台所で作るつったら料理に決まってんだろぉが。」
「えぇえっ!?」
「おまえが聞いてきたんだろ?『何食べたいんですか?』って」
「そ、それはそうですけど…!」
「あそこじゃおまえマスク外せねぇっつーし。」
「っ…、」
な…、なに…、それ…。
なんかよくわかんないけど、えっと…、
ここに連れてこられた理由って、外じゃ私がご飯食べるのに周りの目を気にしちゃうから…、
だから人目を気にしなくて済むようにここに連れてきた…、って事…?なの?
なんて言葉足らずでぶっきらぼうなんだろうって思うけど、なんだろう…。
あからさまに優しさの押し付けみたいなやり方じゃない、恩着せがましいところも全然ない、そんなところがすごく土方さんらしいなって思えて何でかわからないけど、心の奥の方から何かが湧き上がってくるような…、こみあがる何かのせいで、気が付くと私の頬も緩んでいてマスクの下の口元もきっと口角が上がっていたと思う。
「………、なに笑ってんだよ…」
マスクで私の表情なんてわからないはずなのに…、
「い、いえ別にっ!?笑ってなんていませんよ!?」
なんでバレたんだろう!?低い声でズバリ言い当てられてドキッとするけど…、
でもやっぱり、そういうところもぶっきらぼうだと思う一つの要素なんだと思うと、不思議と怖いってイメージは感じられない。
「……まぁいい。ここにあるもん、好きに使ってくれて構わねぇからなにか美味いもん頼んだぜ」
私の様子を見てあまり納得のいかないような表情を浮かべたけれど、首を傾げて小さくため息をつくと、またまた背中をポンっと押されてキッチンのスペースに押し込まれる。
「えっ…、っと?」
「手の込んだもんじゃなくていい。そういうの得意だろ?」
そういいながらリビングへと歩いて行って、テレビの前に置いた本屋さんの袋から中身を取り出してソファーにどっかりと座り込んだ。
「…………、………え?」
な…、なに…?
なんか、土方さんって気遣いができる人なのかなんなのか…、
これは前言撤回した方がいいレベルなんでしょうか…?
あげて落とすみたいな?
違う。低いとこから少しだけ上げて浮かれたところで意表を突いて後ろから突き落とす戦法だ!
んん?
戦法って、…戦いなの?
んーーー、
なんか私おかしいかも。
成り行き?というか無理やりこんなとこ(って言ったら失礼なんだけど)連れてこられて、何の心構えもなくレベルアップして、きっと頭が現実逃避しちゃってるんだ。
だって、『頭が現実逃避』って。
これ自体おかしいし。
………。
とりあえず、
今ここにいること自体おかしいことなんだよ。うん。
あれ?もしかして今この状況が既になにか別のことから現実逃避してここに至るって訳じゃないよね???例えば土方さんに手を繋がれてここまで来たこととかそういうこととか…。
………。
ん。
もういい。
考えるのやめて、とりあえずさっさと土方さんにお昼ごはん作ってさっさと帰ろう!
気を取り直してそこにあるという材料を物色するため、男性一人暮らしの割には立派でオシャレな冷蔵庫(どこの国のメーカーだろう…?)を勝手に開けさせていただいた。
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