僕のおねえさん
□39.
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☆★そこのけそこのけ土方さんが通る★☆
「土方さんはよく本屋さんにいらっしゃるんですか?」
お会計を済ませて本屋さんから二人並んで外に出る。
土曜日のお昼時とあって駅ナカの通路は結構な人通り。
最初こそ横に並んで歩いていたけれど、すれ違う人の流れに押されて少しずつ土方さんの後を追うような感じになってしまう。
「あぁ、まぁな。これでも一応古文受け持ってるしな」
それでもこうやって受け答えしてくれる範囲にはついていけれてるけど…。
「古文の…、あー、だから俳句…」
そこまで言うと、少しだけ高さの上がった肩越しにチラッと振り返った横顔から覗いた眼がなんとなく泳いでいて、
「ま、まぁ…、教える上で俺自身、いろいろ視点というか視野というか…、幅を広げたいってところもあるしな…」
と、あまり踏み込まれたくない部分なのか、彼らしくもなくしどろもどろな感じで遮られる。
「偉いですねぇ、休日もそうやって授業のこととか考えて。」
すれ違う人にぶつからないように、土方さんの後ろから離れないように、普段より早いペースの足取りに注意して歩きながら話す。
「古文かぁ、高校生の時は苦手で、どうしてこんなの勉強しなきゃならないんだろうって思ってましたけど…、今なら少しその意味がわかります。昔の人の作品から伝わるものとか、当時の文化とか…、過去に生きた人がいるから今の私たちがいるっていうか…、なんていうか、うまく言えないんですけど……、」
ザカザカ夢中で歩きながら話していると突然右手を掴まれてぐいっと引っ張られる。
「っ!?」
驚いて見上げると肩越しに振り向いた土方さんはさっきの本屋さんで見た時と同じような優しい瞳で、「つかまってろ」と短く言うとすぐに前を向いて颯爽と人の波を掻き分けるようにズンズンと進んで行く。
つかまってろって…。
掴んでるの土方さんの方だし…。
『捕まってろ』って意味?
前を行く土方さんの後姿しか見えないけれど、
きっとモタモタしてる私がもどかしくてこうして引っ張ってくれてるんだろうけど…。
今、どんな顔して歩いてるんだろう。
私の顔も…、
繋がった右手がどんどん熱くなってるように感じるのは、土方さんの手があったかいから?
それとも、
私のドキドキと比例して体温が上がっているから…?
とにかく、今の私は手を引かれて歩くペースについて行くのと、掴まれた右手の感覚に、息切れしてしまいそうなほど高まる動悸に耐えるのに必死だった。