僕のおねえさん

□38.
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翌日の土曜日、私は一人無人の静かな会社で、もくもくと引換券作成作業を進めていた。


昨夜、結局ミーティングしませんかというメールを送った後にすぐに折り返しかかってきた島田さんの謝罪の電話によると、あいにくこの土日、島田さんは家族サービスで少し離れた温泉に泊まりの旅行をするとのことで、一緒に作業をすることはできないと、ものすっごく申し訳なさそうに謝り続けられてしまった…。

なんでも、先日のゴールデンウィークは連日夜も眠れないほど昼夜構わずスイーツのことを考えまくっていて全然家族サービスらしいこともしていなかったという事で…。

確かにあれだけの種類のスイーツを用意してきたんだもんね…。島田さん、スイーツの事となったら誰にも止められなさそうだし。




そんな訳で、翌週から使うことになる引換券は絶対必要なわけで、今日か明日には必ず完成してなきゃいけない状況。

お店のロゴとお弁当の限定数分のナンバーを入れたカードを作成するくらい一人でできることだから別にいいんだけれど、やっぱりこういうのってセンスとか?自分一人で決めちゃっていいのか少し不安に思うところもあったりするっていう…、


それでも島田さんは『名前さんのセンスにお任せしますよ。』なんて、いつもの優しい声で言ってくれて…。


センス…。

まぁ、
シンプルが一番って事で、ロゴとナンバーだけにしておこう…。

島田さんとの電話で決めた生徒への販売分、限定40食分の引換券をA4サイズのカラーペーパーに印刷してラミネートしたカードを完成させた。




って簡単に言っちゃったけど、まずカラーペーパーに印刷したのを裁断機もないこの事務所で一枚ずつカッターナイフで切るのもなかなか力がいるもので、ずれないように定規を押さえてた左手がすごくプルプルする。

小さくカットした引換券を今度は等間隔にラミネートフィルムに並べるのも、ものすごく神経使ったし!


でもってそれをまた一枚ずつカットするのだって、さっきの作業よりも力を入れないといけないっていう作業で…。


うー、明日は筋肉痛だこれ〜…。




思いがけず酷使した筋肉をほぐしながら、戸締まりした事務所を後にする。




11時かぁ…。どうしようかな…。

そういえば今日は総ちゃん、土曜日なのに珍しく私が家を出る頃起きて来たけど…、どこか出かける予定でもあったのかな?
お昼はどうするんだろう?
家にいるなら作らなきゃだし…、
とりあえずメールしてみようかな。


そんなことを思いながら電車に揺られつつメールを打ってみると、すぐに帰ってきた返信メール。

どうやら今日は剣道部の親睦を深めるために遊園地で遊んでいるらしい。

遊園地かぁ…。

もう何年も行ってないなぁ〜…。
総ちゃんやはじめ君、千鶴ちゃんと平助君、みんな剣道部って言ってたっけ…。
きっと他にも剣道部のメンバーが大勢集まってわいわい楽しいんだろうな〜…。

なんて、年頃の子達がはしゃぐ様子を思い浮かべると、自分が高校生だった頃のあの過去の出来事がふと脳裏を過る。




………、

プールじゃなければ…、
こんなコンプレックスにならなかったのかなぁ…。


今でこそ、傷痕もいくらか薄くはなっているけれど、あの出来事がなかったらきっと心の傷は少なくともこんなになることはなかったかもしれない。

なんてね…。

過ぎたことを言っても仕方ないんだけどね。


あれからあの人以外に傷を見られたことはないし、土方さんも何も見てないって言っていたし。

少しづつでも消えて行く傷痕のように、心の傷もきっと綺麗に消えるはずだし!


そうだ!
総ちゃんのお昼の心配もしなくていいんだし、寄り道して行こう!



改札を出た私は駅ナカにある本屋さんへと足を急がせた。
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