僕のおねえさん

□32.
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放課後の職員会議での事。
議題は専ら弁当屋…、いや、正門に出現したカフェと生徒の問題だ。



「各休み時間、生徒の利用を許可したはいいが、今日みたいに授業中浮ついたり、授業が終わるなり飛び出して行くような事が続くようなら教師として今後あの場所で営業させるのは容認できネェ」



俺の発言にざわめく職員室。
そのざわめきは、俺の発言に対しての賛否両論をそれぞれが発言としてではなく思うことを思ったまま述べているといったもので、どうするべきか解決策になるような提言を述べる奴は誰一人としていないようだ。



「だからって、せっかく俺らの弁当事情も改善されて、今まで弁当注文してなかった職員だってこれから楽しみにし始めてんのに、たった一日の様子で決断するなんてちぃっと気が短すぎるんじゃねぇか?」



原田の発言にそうだそうだと言うヤツもいれば、「じゃあ様子を見ているだけで、後々落ち着いていくと断言できるのですか?」とカフェの存在自体を否定するような意見も飛び交う。

ざわめく職員室、事態を収束させようという気持ちだけはあるが、どうすることもできない様子の近藤さんは椅子から腰を浮かせてオロオロとし始め、声を発しようとした時、横に座っていたツネさんがすくっと立ち上がり挙手をした。



「はい!私からもよろしいでしょうか」



そのよく通る声に全員が口を止めて一斉に向ける視線にも怯むことなく真っ直ぐな眼差しで職員室全体を見渡す。



「実は先ほど、今日の活動報告としてお店の二人が私のところへ顔を出してからお帰りになったんですけどね。……、やはりお店側の方からしても、この環境は学校にとって良くないのでは…、という意見が出ました。」



職員全員が黙り沈黙が生じる。



「一般客の通行量、集客状況など、カフェの活動に関しての立地条件は申し分のない素晴らしい環境だと言っていただけましたが、やはり生徒への影響を考えると、教育現場としてカフェの存在は…、まして、授業中、教室から見えるようなところでの営業は生徒たちの授業の妨げになっているのではと大変危惧されておりました。」



落ち着いた口調で話すツネさんを、心配そうに眉毛を下げて見上げる近藤さんの視線に気づいたのか、彼女も視線を下げチラッと目を合わせると、瞼を伏せ、ふぅと一息ため息をつき、顔をあげてもう一度職員室を見渡した。



「この件に関して、本日の営業活動の報告と合わせてもう一度本部の方とよく相談をしてくださるとのことでしたが…、もしかしたら、この契約、なかったことになってしまうかも知れませんね…。」



いつものツネさんらしくない、尻窄みの声に、誰もが声を発せず黙ってしまう。


沈黙の室内……。



「………じゃあ、あの弁当ももう食えなくなるってのかよ…」



それまで珍しくずっと黙って俯いていた新八が静かにつぶやく声が響いた。

その小さな呟きに視線が集中する。



「永倉くん…、………、そうね、契約が破綻となれば…、もともと彼らはお弁当屋さんという訳ではないから…、」



その言葉に職員たちから「そんな〜…」等と嘆く声が上がり、再びざわつく。



「ただ、授業中の生徒に与える影響とは別の話で、お昼休みのラッシュに関して一つの案として、帰り間際にお店の方から提案があったんだけど…、私たち職員と同様に、生徒たちにもお弁当の予約をしてもらうというのはどうかという話が上がったんだけど…、そういう事は可能かしら?」



ざわつく職員たちに意見を求めるように目配せするツネさん。

その案を彼女に提案したのは俺で、ツネさんに伝えたのも彼女だと知る。

当然俺からは何の異議もないが、それが可能なのかと聞かれたら、単純なものではないのかもという思いが過る。



「仮に予約制を取るにしたって、俺ら教師の場合、誰が注文したかはっきりわかるようにしてあるし、支払いも給料から天引きされるから何の問題もねぇが、生徒の場合、予約の締め切り時間とか、予約したはいいが本当に予約した生徒が買いにいくかどうかわかんねぇんじゃねえのか?いちいち予約した生徒の名前を確認するのも相当の手間だろうし…」

「それに予約した数を、ちゃんとお弁当屋さんが用意できるとも限らないんじゃ…」

「生徒達が登校してから予約させるとなると、その分の用意をそこから始めないといけなくなりますよね?間に合うのでしょうか?」

「でも、かと言って前日から翌日のお昼の予約をさせるのもどうかと思いますけどねぇ…」

「今日のあの状態でどれだけの生徒が買いに行ったのか、だいたいの数字はわかっているのですか?それとお弁当をちゃんと買えた生徒の数等…」



議題のテーマがすっかりカフェの問題から弁当屋の問題にすり替わってしまったようだが、一つづつ解決していかねぇと今後の自分たちの昼食問題に関わることだという思いがそこここから伝わってくる。


……………。



確かに誰かが言ったように、予約を生徒にさせるにしても数に制限なく予約が可能なのかさえわからなければ、予約したにも関わらず売り切れで買えなくなるという場合もあるだろう。
そうなれば何のための予約なのか全く意味もねぇことになっちまうだろう。

自分で言い出した事なのに、これと言った解決策にもならねぇ事だとようやく気づく。

このまま明確な案も出ず、弁当屋とのつながりもなくなって行くのかと、ふと柄にもなくため息が鼻から漏れた時、「これは俺からの提案なんだが…」と近藤さんが手をあげた。
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