僕のおねえさん
□30.
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「あんた…、猫の言ってることがわかるのか?」
パウンドケーキをすっかりたいらげた猫たちは、私たちの存在から逃げるでもなく、各々好きなように戯れだした。
一匹、どうしても土方さんの頭の上に乗りたいみたいで、一生懸命ツメを立ててワイシャツの壁をよじ登ろうと挑戦しているけれど、いつも肩に届く前に土方さんに首根っこ摘ままれて地面からスタートを繰り返している。
その様子を微笑ましく見ていたら、何気なく聞かれた一言に「え?」と聞き返す。
「や…、…んな真顔で聞き返すんじゃねぇょ…」
私の顔から恥ずかしそうに視線をそらす土方さんを見ていたら、何となく抱いてたイメージと違って、かわいいとか思う自分がいてちょっとびっくり…。
でも何でだろう…。
こんなひとときが心地いい。
変な気を使わずにいられる事が不思議だけど自然…。
「あんたを初めて見かけた時も…、」
「?」
「猫と話してた…。」
「あ…」
土方さんと初めてあった日。
確か土方さんが大きな声で駆けつけてくる前、私の膝の上に乗った真っ白な子猫が私を慰めるようにしてくれてたんだっけ…。
「見られてたんですね…。」
なんだか知らないところで見られてたんだと思って少し恥ずかしくなって肩を竦めて俯くと、またゴール目前でつまみ上げられた子猫を地面に戻すでもなく、掌に乗せて頭から背中まで撫でながら、「最初にその光景を見た時は夢でも見てんじゃねぇかと思ったくらい印象的だった」と子猫の気持ち良さそうな顔を目の前に持ち上げてなで続けながら低い声で呟いた。
「………。」
子猫を撫でながらそう言う土方さんの横顔がとてもキレイで、ぼぉっと見つめてしまう。
何も返事もしないでぼーっとしている私に気が付いた土方さんの瞳が、チラッとこっちに向けられて、漸くハッと我に返る。
「…それ、食わねぇのか?」
一度目を合わせて私を現実世界に呼び戻した土方さんの瞳は、今度は私の右手にいつまでもできたままの形で残っているエクレアをチラッと見て、また私の顔に視線を戻す。
「あっ、そうだ、食べなくちゃ!」
なんかもう、ついさっきまでほんとにクタクタでどうにもならなかったのに、猫とか土方さんの事ですっかり忘れていたけど、今はお昼休憩の時間だったんだ。
「なんだ…?まさかそれが昼メシか?」
子猫を撫でるのに飽きたのか、今度は子猫の首根っこの柔らかい皮膚を、つまんでは掌から浮かせて離すを繰り返しながら聞いてくる。
「あ、はい…。そうなんです…」
「……姉弟揃って……。弟が弟なら姉も姉だな。」
はぁっとため息混じりに呆れるように言われて、慌てて否定する。
「ちっ!違いますっ!私だって好きでこんな甘いのお昼ごはんになんてしません!今日はちょっと予想外で食べるものが全部売れ…、ちゃっ…て…」
大慌てで焦る私をジッと見つめる瞳に気がついて、なんでこんなに全力で否定してるのか、だんだん恥ずかしくなってきた。