僕のおねえさん
□30.
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☆★導かれて…。★☆
「にゃっ!?」
「えっ!?」
「ニャー、ニャーニャ〜」
「………っ!?あんた…何でっ…!?」
「にゃ……、」
「………、」
猫に誘われるように連れてこられた場所にくると、私の前を歩いていた猫が、突然驚いたような声をあげて建物の曲がった先を見て立ち止まった。
猫の背中を見ながら歩いていた私も当然その動きに合わせて立ち止まり、驚いて動きを止めた猫の視線の先へ顔を覗かせると…。
猫に連れてこられたここ、所謂、体育館の裏側になるこの場所には、
立ち尽くす猫と私、それから草の茂みから顔を出す小さな子猫たち。
そして私の数歩前でこちらを振り返って見上げるのは…。
「……ひ…、ひじ、かた…、さん?」
「にゃ…」
「………。」
「ニャー」
………。
私と私を連れてきた猫、
それから体育館と地面の段差になったところに座る土方さんは完全にその場の状況を把握できなくて三人揃って目を見開いて時が止まる。
動いているのは茂みから顔をのぞかせている小さな子猫と、土方さんの膝や肩によじ登るやんちゃな子猫たちだけ…。
「にゃ……、」
私を連れてきた猫が「あんたたち…、一体何を…」と言うように小さな声を漏らしてゆっくり一歩歩み寄ると、その存在に気がついた子猫がぴょ〜んと飛び降りた。
土方さんの肩の上から。
「ぃっ…、て…」
他の子猫たちも茂みから出てきて同じように猫に寄ってきては擦り寄ってニャーニャーか細い声で鳴いている。
きっとこの子達は親子ネコなんだ…。
「おい…。こいつもお前の子供だろ」
私の足元で親猫にコロコロじゃれつく子猫たちの中に最後まで膝の上から離れなかった子猫の首の後ろをつまみ上げ、ヒョイっと放り込んだ。
放り込まれた子猫は楽しそうな顔で親猫にすり寄り、親猫も一生懸命必死に子猫を舐め回す。
ふふ、これ消毒かなぁ?
土方さんが触ったとこ消毒してるのかな!
なんてその様子がおかしくて見ていたら、
「なに笑ってんだよ」
「な"ぁー」
土方さんと親猫、二人揃って同じように眉間に深いシワを刻んで、ふたり同時に低く少し怒ったような声で私を睨みあげる。
「はっ…!あわわ。すいません!」
何故か慌てて謝って、すぐにしゃがんで猫たちにスイーツの乗ったお皿を差し出す。
「あっと!チョコはダメだめで〜す!」
すぐにお皿に群がる子猫たちからさっとエクレアを取り上げて腕を高く上げると、今度は土方さんが笑いはじめた。
「ぶっ!……くくくっ」
「??」
手をあげたまま目の前にいる土方さんを見れば、片方の足を段の上にあげて曲げた膝の上に腕を乗せ、そこに顔を隠すようにして肩を震わせていた。
「な……、」
なに〜?なんで笑ってるの〜!?
急に恥ずかしさが込み上がってきて顔に熱が集まってくるみたい。
なんて言ったらいいのか言葉が見つからなくて開いた口をどうすることもできない私を涙ぐんだ目で上目遣いに見てくる土方さん。
「あ…、あんた…。やっぱり、…くくっ!」
「???」
何がそんなにおかしい?泣くほど?
笑われ続けて恥ずかしながらも、土方さんが何を言うのか首をかしげて見守っていると涙で滲んだ目尻を擦って顔をあげ、はぁ〜っと一息ついて笑いを収め、地面に手をついて猫たちに優しい眼差しを落とした。