僕のおねえさん

□29.
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島田さんに、「どうぞゆっくりしていらしてください、私が留守番してますから」と言われ、お言葉に甘えてテラス席の一番すみに腰掛けた。

別に車の中で島田さんとおしゃべりしながらでも全然良かったんだけど、ドリンクを入れてもらった後、






「名前さん、ほんとにエクレア一つでいいんですか?」

「え…?あ…、はい…」

「そんなんじゃ倒れてしまいますよ?もっと食べなきゃ!」



そう言ってさっき山積みにしたスイーツのお皿を持ってきて、エクレアの乗ったお皿に追加しようとしていたから慌てて「いいですいいです!ほんとにこれだけで充分なんです!」と言ったところ、ものすごくシュンとした島田さんに、



「そうですか…。うまくできてるんですけどね…」



と呟かれ、なんだか物凄く罪悪感に苛まれてつい、



「あ…、あ〜…、そ、それじゃあその紅茶のパウンドケーキ下さい」



まるでお客さんにでもなったような気分で言うと、島田さんは打って変わって嬉しそうに微笑んで「ありがとうございます!」とパウンドケーキをエクレアの横に乗せた。



「島田さん、買わせ上手ですね…」

「ははは!他はどれにしますか?」







あのまま車の中で食べることになったら、きっと私は 吐くまで 胸焼けするまで甘いものに溺れることになっていたかも知れない…。

別に甘いものが苦手なわけじゃないんだけれど、やっぱりこんなにクタクタな時はそんなに食べる気分になれない。
冷たいドリンクで一息つければ、今は充分…。

冷たいフローズンの入ったカップに触れた手をずっと遠くまで伸ばして、その腕に傾けた頭を乗せてバッタリと倒れこむようにテーブルに身を預けた。


はぁ…。

怒涛の男子高校生の勢いに、男性恐怖症だとかなんだとか言ってられないくらいの一日だったな…。まだ終わってないけど…。

でも、ある意味これが『余計なことを考える暇ないくらい仕事に没頭してる』状態になるのかな…。

ほんとに目の前の作業をこなすので精一杯で、対面している人が何を見てるか、何を思っているのかなんて全然気にもならなかった。

なんか…、
今までの自分がバカみたいかも…。

普通にしてればなんてことないのに、変なことばかり気にしちゃって、誰も私のことなんてそんなにまじまじと見る人なんていないのにね…。

肩で大きく息を吐いて腕に乗せていた頭を真下に向けて机に隠すように俯く。



つかれた。


もっと楽にしよう。




フーッともう一度肩と背中を大きく膨らませて息を吐ききると、テーブルの下の足に何か纏わり付く感触。



「っ!?」



驚いてすぐさま身を起こして足元を覗き込んでみれば、さっき島田さんがお弁当の配達に出た時に遊びにきてたネコが、私の足に頭を擦り寄せていて、覗き込んだ私の顔を見つけると、「にゃ〜ん」と甘ったれた声で見上げてきた。



「あ…、あなた、さっきの…」



驚いている私をよそに、ネコは私の足元から離れると、地面を蹴って椅子に飛び乗り、そこからまた机の上に飛び乗った。
そしてお皿の横に腰を下ろすと、いつかの白い子猫のように姿勢正しく私を見上げて「にゃー」とひとこと。



「なぁに?何か用?さっきはすぐに行っちゃったけど…。」



何か言いたそうな猫を見つめて首を傾げながら訪ねてみると、目の前のネコはなんだか満足そうに目を細めてまた「にゃ〜」と言ってクンクンとお皿の上のパウンドケーキに鼻を寄せて、もう一度私の顔を見上げる。



「なんだ、お腹空いてるの?いいよ、どうぞ?」



そう言ってお皿に手を添えて差し出すと、ネコはすたッと地面に飛び降り私を振り仰いで見上げると「な〜ぉ」と一層甘えた声を発してスタスタっと歩き始めた。



「えっ!?ぇ、え?なに?」



猫の行動に驚いていると、立ち止まったネコはまた振り向いて、



「にゃーー」



と猫にしては大きな声で、まるで「早く来てよ!」とでも言うように私に一喝すると、また背を向けて歩き出した。



「な……、なんなの?」



よくわからないけど、何となく、
ネコの言うとおりテーブルの上のものを持って後をついて行った。





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