僕のおねえさん
□28.
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☆★弁当屋★☆
時計の針が12時半を迎えようとする頃、職員室に食欲をそそる香りが漂ってきた。
「こんにちは!失礼します!」
職員室の扉の向こうから野太い男の声が響き、ガラリと小気味の良い勢いで扉が開くとやたらガタイのでかい男が姿を現し、律儀に頭を下げると職員室全体を見渡し、さらに職員室全体に行き渡るようなでかい声で「お弁当をお持ちしました!どちらに置けばよろしいでしょうか!?」と誰にでもなく訊ねた。
その場にいた職員連中はその男のデカさに圧倒されて一瞬ぽかんと動きを止める。
もちろん俺も…。
だが、男の後ろの扉が開いて近藤さんが現れると時の止まった職員室に再び時間が流れ始める。
「やぁやぁ!何事かと思ったら!おぉいみんなの弁当が届いたぞ〜!」
背後から現れた近藤さんに向き直りさっきと同じように律儀に挨拶する男に、弁当を注文していない教師も含め、そこの場に居合わせた奴ら全員がいつもと違う様子の弁当箱を覗きに群がる。
「今日メニューは豆腐ハンバーグのロコモコ丼と具沢山コンソメスープです!」
誰かが中身を聞いたのか、それとも弁当屋の男がどうだとばかりに言ったのかはここからじゃわからなかったが、とにかくでかい。
そこまで声張らなくてもいいだろうと思っていると、群がる連中からどよめきのような歓声が上がる。
「本日は8名様分をお持ちしましたが、まだまだ店頭にありますので、もしよろしかったらいつでもご利用ください!」
「それでは失礼します!」ときっちり腰を曲げて、空になったプラスチックの箱を片手に職員室から出て行った。
「今度の弁当屋さん、今までのとことは全然ちがうなー」
「あぁー、前んトコはなんか覇気がないっていうかな。」
「弁当の内容も格段にレベルアップしてるし!」
「でも値段は?前は一食500円だったよね?随分頼んでなかったからうろ覚えだけど…」
そんな会話をしながらそれぞれ自席に戻る教員たち。
特に食うもんなんか食えりゃいいと思っていた俺だが、これまでの弁当と比較して、ここまで他の教員たちが盛り上がる内容に興味が湧かないわけでもなかったが、一つため息を吐き捨て立ち上がる。
窓から見えるワゴン車とそこから正門付近に設置されたオープンテラス。
あの車一台で…、
あそこで弁当作ってるのか…。
そんな事をぼんやりと思いながら眺めていると、視界の隅に入ってくる弁当屋の男の背中。
あのデカイ男があの車の中でせせこましく動き回るのを想像してどうにもむさ苦しさを感じてしまうが…。
新八はここから何を見てニヤついてたんだ?
ったく…、あいつの考えるこた全くわかりゃしねぇ。
生徒たちもたかが移動販売が来たくれぇで騒ぎやがって…。
全く騒がしい一日だぜ…
ため息をついてタバコでも吸おうかとその場を動こうとした瞬間、
ワゴンの向こうから正門の外へかけ出して行く一匹の猫を見た。