僕のおねえさん

□27.
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「…名前ちゃん」

「総ちゃん!」



その次の休み時間はさっきまでとは打って変わって、男子生徒が駆けつけてくるような事はなかった。
その代わり、一番乗りのお客様は私の弟、総ちゃんだった。



「名前ちゃん…、何してるの、こんなところで…」

「何してるのって…、」



総ちゃんが来てくれた事で浮かれた心の私とは違って、少し疲れたような雰囲気の総ちゃんは、荷物置きの天板に両手を置いてそこに体重を預けるようにして私を見上げた。



「…聞いてないよ?」

「え?」

「僕、名前ちゃんが来るなんて聞いてないんだけど」


そういう総ちゃんは、一体何が不満なのかわからないけれど、まるで拗ねた子供のような口調で一言口を尖らせて言った。



「聞いてないよって…。だって、私だってびっくりだよ…。まさか出店先が総ちゃんの通う学校だったなんて…。」

「………。」

「な…、なに?」

「………。」

「………総、ちゃん…?」



黙ったまま見上げる総ちゃんの半目にたじろぐと、「気をつけなよ」と半目の表情を変えることなくまるで腹話術のように口元すら動かさずに小さく呟く。



「え?」



なに?今なんて言った?
聞き取れなくて身を乗り出して聞き返すと、総ちゃんはギュッと眉間にシワを寄せて綺麗な顔立ちを歪めると、ものすごく忌々しい気持ちを惜しげも無く表現するように顔を顰めた。



「ここは飢えた狼の巣窟だよ。無闇にそこから出ない方がいいから。本当に気をつけて。」



一体何を言っているのか聞き返そうと口を開きかけた時、総ちゃんの背後から明るい陽気な声に遮られた。



「お〜い、そーじー!」



その声に私と総ちゃん、同時に顔を向けると「おわっ!名前さん!?」と盛大に驚いて駆けつけてくるのは、昨日近藤さんちで生肉を食べてた平助くん。



「えっ!?名前さん!?」



平助くんの声に反応して同じように駆けつけてきたのは、昨日と同じように綺麗な黒髪を左側でゆるくピンクのシュシュで纏めた千鶴ちゃん。



「なんだなんだ!珍しい弁当屋が来てるってみんなが言うからどんなもんか見にきてみたら!…つーかなんで名前さん?」



キョロキョロとテラス席からワゴンの中まで興味津々見回して、最後に私に人差し指を向けて首をコテっと傾げる平助くんの後ろに追いついた千鶴ちゃんが「平助くん…!指差しダメ…!」と小声で注意する。



「ちょっと、僕のおねえさんに指差すなんてどういう了見?」



そう言って平助くんの右手をぺしんと叩いて下げる総ちゃんにビクッと肩を跳ねあげて「わっ、悪りぃ!」と慌てて謝る。



「つーか怖ぇよ総司」とか言ってる平助くんの横から千鶴ちゃんが見上げて話しかけてきた。

「お弁当屋さんって名前さんだったんですね!こんな事ってあるんですね!」



両手を口元でパチンと合わせて嬉しそうに話す千鶴ちゃんに、今日初めての女子生徒のご来店とあって私まで嬉しくなる。



「本当だね!私もまさかみんなの学校に出店するなんて思ってもみなかったから本当にびっくりしちゃって…。でも千鶴ちゃんが来てくれて良かった〜!全然女の子来てくれないんだもん」



何か飲む?とメニュー表を差し出して訊くとキョトンとした瞳が六つ。私を見上げて時が止まる。



「?」



その瞳に私も首を傾げて見返すと「全然女の子こないって…」と言いかけた平助くんの口を素早く総ちゃんの手が塞ぐ。



「?」

「千鶴ちゃん、ほら、ストロベリーソーダだって。これ綺麗だしこれにしなよ。あ!スムージーもあるってさ。どれでも好きなの選びなよ。平助くんが奢ってくれるって!」

「も…!もがっ…!?なっ!?なんでオレの奢り…!?」

「えっ!?えぇ…?」

「なに?平助くん。女の子連れてきてまさかのワリカン?男としてそれってどうなの?」



総ちゃんに肩に手を回され、塞がれた口を身をよじって振りほどいた平助くんは、見下した顔を近付ける総ちゃんに、「なっ!?」と言葉を詰まらせる。



「ほら、早くしないと休み時間終わっちゃうよ?」



総ちゃんに急かされて「はっ、はいっ!」と慌ててメニュー表に見入る千鶴ちゃん。



「ふふ、じゃあ僕はバナナチョコラテで。平助くん、ご馳走様。」

「なっ!?」



「なんでそーなるんだよーっ!?」と平助くんの叫び声が校舎に木霊する中、急いで総ちゃんと千鶴ちゃんのご注文の品を用意する私も大概Sなのかな?と思った。
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