僕のおねえさん

□25.
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「近藤さん、やっぱりこんなのおかしいぜ!」



二時間目の授業を終えた後も、俺はやはりさっきと同じように怒鳴り込んで職員室のドアを開け放つ。



「理事長に言ってくれ!休み時間中に飲みもん買いに行くのはいいが、授業中そわそわするのやめろって!」

「な…、そんなことをツネに言ってもしょうがないだろう…。」

「しょうがないだろうじゃねぇよ!あいつら買ってきたもんは一応後ろのロッカーに置いておくのはいいが、俺が目を離すとすぐ窓の外の様子見てそわそわしやがる…。授業の終わりが近付いてきたら、いても立ってもいられないってのが空気でわかるんだよ!こんなんじゃまともに授業の内容も身に入らねぇだろうが!?」

「い、いや、だからと言ってそれをツネに言うのは違うというか…、な?」



バンと近藤さんの机に手をついて一気に言いたいことを言えば、案の定顔面蒼白で困った顔をする近藤さん。



「そわそわしてるのは生徒だけじゃないんじゃない?」



突然割って入ってきた声に俺と近藤さん、二人揃って顔を向けると、そこには職員室から繋がる校長室の扉に背中を預け、腕を組んだ右手の人差し指を職員室の奥へと指差す理事長、ツネさんが立っていた。



「ツネ!」

「……、生徒だけじゃないって……」



ツネさんの登場に安堵の表情に切り替わった近藤さんに溜息をついてから、彼女が指差す方を振り返ってみれば、そこにはさっきの休み時間に買ってきて、既に飲み干して空になったコーヒーのプラカップをニタニタと眺めては、鼻の下を伸ばして窓の手すりに身を預け頬杖を付く新八の姿があった。



「………。」



一瞬で自分でもわかるほど表情が冷める。



「歳三くん、目!目が半目!」



俺の横まできて下からわざとらしい姿勢で覗き込んで楽しそうに言うツネさんの様子に、つい右のこめかみがピシッと音を立てる。



「ツネさん!やっぱり学校にカフェなんてムリだ!気が散ってしょーがねぇだろう!?」

「や、だからトシ!最初だけだ、もう少し様子をみようじゃないか」



さっき近藤さんに怒鳴りつけたのと同じようにツネさんにも言うと、慌てて立ち上がって俺を宥める近藤さん。

だが、怒鳴られた当の本人はというと至って普通で、「そうねぇ」なんて呟いている。



「休み時間になる度にあんな風に駆け込まれちゃったら名前ちゃんたちだって大変よねぇ…。ちょっと考えなきゃね…」



そう言ってブツブツと顎に手を当てて頭を捻ってはうーんと唸っている。

というよりも、今総司の姉の名前が出てこなかったか?

ツネさんの頭の中は、相変わらず理解不能で聞いてる方が答えに悩む。

今俺が提議している問題をちゃんと理解して考えているのだろうか?



「とにかくツネさん!生徒たちには昼以外あそこに近付くのは禁止にしてくれ!あんたがそうしないってんなら俺が休み時間の度に昇降口を封鎖するからな!」



吐き捨てるように言って自席に戻ると、向かいの席の原田がいつものように眉毛をハの字に下げて「おつかれさん」と溜息を付く。



「ったく…。先が思いやられるぜ…」



バサッと音を立てて教材を机に叩きつけ椅子に腰掛ける。



「まぁまぁ、土方さんもいちいち過剰反応しすぎなんじゃネェか?」

「あぁん?」

「誰だってそこになかったもんが突然湧いて出てきたら興味持つだろ?俺たちもさっき様子を見てきたが、ありゃ完全に生徒向けの内容じゃねぇし値段だって自販機で買うのとは遥かに違う。最初はみんなどんなもんか試しにいくが、スポーツドリンクもない店だ。一週間…、いや、三日もすりゃあ静まるだろ?」



次の授業の用意を進めながら淡々と言う原田に、それもそうかと徐々に頭の温度も下がって行く。



「ま、別の目的が尾を引く可能性も無きにしも非ず…、だけどな」



そう言って立ち上がり席を離れて行く。
別の問題…?また訳わかんねぇこと言い残して行きやがって…。



「おら新八、お前も次の時間、授業だろうが。さっさと行くぞ」



俺が聞き返す間もなく背を向けると通り際に授業で使うテキストで新八の後頭部を叩いて行く原田。
叩かれたにもかかわらず、微動だもせず尚も手すりに寄り掛かったままの新八はニヤついた顔をさっきから同じ場所に向け、プラカップ越しに見ながらぐふぐふといやらしい笑い声を発する。



「んふふ、いぃよな〜。一生懸命働く姿。この中に閉じ込めてぇよ」



あまりのアホさ加減に俺も原田も「キモいんだよ!」と言って、原田はもう一度テキストで頭を叩き、俺は机の上に転がっていた、斎藤が不逞な生徒から没収してきた預かりもんのヘアワックスを投げつけた。
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