僕のおねえさん
□22.
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☆★始動★☆
ゴールデンウイークも明けて、いよいよ大鳥部長のプロジェクトが形となって始動する。
今日はその初日という事で、先ずはこれからお世話になる設置場所を提供してくれた私立高校の校長先生と理事長さんにご挨拶をしに、大鳥部長の車に先導されて、島田さんの運転する私たちの自慢のお店となるワーゲンバスを走らせていた。
「いよいよですね」
「はい」
「緊張してるんですか?」
「………、ちょっと…」
運転する島田さんに照れ笑いを浮かべながら肩をすくめて顔を向ければ、ははっと笑いながら運転を続ける島田さん。
「そうですよね。私も少し緊張します。なんてったって今日はこれまで夢だと思っていた事が実現する最初の日ですからね。私の作ったスイーツを、どんなお客様が買いにこられて、どんな顔で食べてくださるのか…。それを思うと連休中も居ても立ってもいられず、毎晩ぐっすり寝ることもできませんでしたよ」
困ったように参った参ったと頭をかきながら言っているけれど、でも、ものすごく本当は嬉しいって気持ちが伝わってきて、私の顔も知らず知らずニンマリとしてしまう。
「名前さんも、髪型を変えてしまう程の気合いの入れよう…、ですもんね。」
相変わらず前を見ながら運転する島田さんに言われて、えへ…、っと小さく笑って答える。
五月に入った連休前、会社に出勤した私は朝一番からみんなに驚きの声を浴びせられた。
「えっ!?」
「うそっ!?」
「おは、よー…、ござい…、ます?」
「名前…、さん…?」
「なの…?」
事務所の扉を開けると和やかな朝の挨拶を交わそうと先に来ていた内勤スタッフの男の子と女性事務スタッフ、それから島田さんに続いてもう一人の男性スタッフが順に、全員がそれぞれ動きを止めて目を瞠っていた。
どうしたの?とか、振られたのか、とかいろいろ取り囲まれて聞かれたけれど、本当の理由なんて仕事の場で言えるはずもなく、聞かれるがまま、押されるがまま、とりあえず薄ら笑いを浮かべて相槌打っていたら、
「気合いだな…」
「闘魂注入だ」
真しやかに囁き出した男性スタッフ二人組に、おかしなキャラ設定されそうだったので「心機一転です!」と叫んだ月曜日の朝。
あれから三日間の連休を挟んで今日は金曜日。
初日が金曜日で明日からまた土日で二連休。
なんだかスタートから穴ぼこな感じで締まらないけれど、少しづつその場に馴染んでいけたらいっか…。なんて呑気に深く考えることすらなかった私に対して、隣で運転する私のパートナー、島田さんはプライベートよりもこれから始まる夢の第一歩をまるで遠足前の子供のように胸をときめかせて楽しみにしていたと思うと、同じスタートを踏み出すパートナーとして少しごめんなさいという気持ちになってしまう。
私自身、これからの事を全く考えていなかったかというと、そういうわけじゃないんだけれど、
やっぱり、先週のあの金曜日の出来事から昨日の再会まで…、
いろいろ気持ちが不安定だったから…、
なんてただの言い訳にしかならないんだけどね。
島田さんみたいにプライベートよりも仕事中心に考えられるくらいになれたら、きっと私ももっと強い心でいられるんじゃないかなって思う。
余計なことなんて考える暇ないくらい、仕事に没頭できたらいいな…。
まだ今は、
昨日のあの言葉が頭から離れないけれど……。