僕のおねえさん
□21.
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☆★総司 vs 土方 -問詰-★☆
図体がでかい割に身軽な逃げ足の総司をいつものように追いかけ試衛館道場からの長い通りから曲った所で塀を背に総司が腕を組み待ち伏せていた。
「っ…!」
「はい、ゴール。」
いつもの笑みを浮かべて余裕の総司。
「………、ゴールじゃねぇよ、てめぇは…。」
軽く息を切らす自分に、こいつとの体力の差を見せつけられたようで些か情けなくも感じるが、こればっかりは仕方ねぇ。相手は現役の高校男子だ。
「…まだ暫くみんなは来ないよね。土方さん、少し話そうか…」
塀の角からチラリと道の奥を流し見て俺の顔へ視線を寄越すと、ついて来いと言わんばかりに目を伏せ歩き始める。
こいつから俺に話を持ちかけるなんて、一体どういう風の吹きまわしだ…。
明日は雨か?
……いや、嵐か?
改めていつもの様子と違う総司に違和感を抱きつつ、その背について歩き始める。
「土方さん、名前ちゃんとは今日が初対面じゃないんだってね。」
「っ……!?」
「聞いたよ?名前ちゃんが猫にひっかかれてケガをしたところに駆け付けて手当てをしてくれたんだってね」
「………。」
「……その日さ、名前ちゃん、会社の飲み会で行ったビアガーデンでナンパしてきた集団に囲まれたらしいんだけど、通りかかった二人組が助けてくれたんだって。なんとその2人組ってのが偶然にも原田先生と新八先生だったっていうね…」
俺に背を向けたままゆっくりと歩き続けながら話す総司について黙って後を歩く。
「こんな偶然ってあるんだね。」
「………。」
「同じ日に同じ学校の先生方が、揃いも揃って同じように名前ちゃんと面識を持つなんて…」
前を行く総司の足がピタリと止まる。
「でもさ。おかしいんだよね。」
足を止め、そういうとゆっくりと振り返る。
その目は俺に敵意を孕んだ光を持つ。
「原田先生と新八先生、それから土方さん。どちらのケースも『助けてもらってありがたい』はずなのに、名前ちゃんの態度ったら…。」
呆れた様子で乾いた笑を浮かべるような、明らかに見下したような表情を浮かべ俺を見る。
「助けてくれた人と再会したんなら、お礼くらいきちんと言わなきゃ…。ねぇ?」
ニヤリとした目付きは笑っているように見えるが俺には睨んでいるようにも見える。
「でも…、お礼を言っていないのは、土方さんにだけ。なんで?」
首を傾げて突然訊ねられる。
「な…、なんで…?」
そんなもん、俺に聞くより直接姉貴に聞きゃいいじゃねぇか。
そう言おうとした瞬間…。
一歩、大きく一歩俺に近付き、俺より数センチ背の高い総司は目の前から見下ろす形で咎めるような視線を落とす。
「土方さん、名前ちゃんに何かした?」
「は?」
「名前ちゃん、手当してもらったって言ってたけど、お礼くらい言えば?って言ったのに『それはムリ』とか『あの人もきっと思い出したくないと思う』って…。………………、土方さん…、見たんでしょ」
「………見た…?」
一層鋭い目つきに変わった総司がそのまま次の言葉を言おうと口を動かした瞬間、背後から賑やかな連中が姿を現し、陽気な声で俺たちを呼ぶ。
「あー、いたいた!土方先生〜!そーじー!」
「………、」
「………。」
右手を大きく降りながら後ろにぞろぞろと従えて先頭の平助が無邪気に笑いながら歩いてくる。
総司と対面していた身体を一歩後退させて振り返る。
「おう」
「もーさぁ〜、二人とも早ぇよ〜!でもちゃんと待っててくれたんだな!」
俺たちの近くまで駆け寄って笑う平助に俺も軽く笑みを浮かべて返すが、背後にいる総司は無言。
その表情はわからねぇが、おそらく話の腰を折られて不機嫌極まりないものだろう。
背後から伝わる空気が、いつものふざけたものとは違う事くらい、見なくてもわかる…。
続々と角から姿を表す連中の中から原田と並んで歩いてくる総司の姉と目が合った。
だが今回はいつものように驚くようなリアクションはなく、にっこりと微笑み小さく手を振る。
「名前ちゃん!」
俺の背後から呼び掛ける総司の声に。
『見たんでしょ』
総司の言葉が一体何を指していたのか。
あの夜のことを思い返してみるが何かを見たという事に思い当たる節がねぇ。
敷いて言うなら、あの夜俺が見たのは、
神秘的な月の光に照らされた猫の姫君…。