僕のおねえさん

□20.
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「もう…。空焚きの鉄板にヘラを置きっ放しにするなんて…。」

「すまない…。」

「はじめ君ともあろう人が、」

「申し訳ない…。」

「そ、総ちゃん、もう大丈夫だからっ…、はじめ君も気にしないで?私も何も考えずに触っちゃったのがいけなかったんだし…」

「すっ…、……、申し訳ない…」



千鶴ちゃんが美味しそうにきれいに切り分けてくれたケーキを前に、いつまでもジト目ではじめ君に言い続ける総ちゃんは、きっと私のことを思って言ってくれてるんだろうけど、あまりにもはじめ君が申し訳なさそうに俯いて肩をすくめている様子が可哀想でつい止めに入ってしまう。



「ほら、原田先生がしっかり応急処置してくれたから赤くなっただけで済んだし!」



そう言って右手を開いて二人に見せるように突きつけると、「原田先生がねぇ〜」とケーキを一口パクッと食べた総ちゃんが仲良しグループで戯れ中の原田先生へと視線を向ける。



「な、なんだよ総司」



総ちゃんの視線を感じたのか戯れ続ける永倉さんと平助くんの間からこちらへ顔を向ける原田先生に、目を細めた総ちゃんはなんだか上から目線でまるで蛇のような目つきを向ける。



「原田先生がする応急処置だなんて…。変なことされなかった?」



そのまま原田先生から私へと視線を移した総ちゃんの目つきにドキッと心臓が嫌な音を立てるけど…、



「へっ!変なことなんてっ!なにもないよ!きれいに治るようにおまじないもしてくれたし!」



総ちゃんの視線が心臓に悪くてついつい早口で口走ると「おまじない…」と呟いてまた原田先生へと視線を向ける。



「だからいちいちなんなんだよっ!」



原田先生も総ちゃんから向けられる視線にたじろいで困ったように眉を寄せながら大きな声をあげる。



「原田先生のおまじないだなんて。おかしな呪いの間違いじゃないの?手当てされるだけでも身の危険を案じちゃうってのに…。名前ちゃん、身籠ってないかちゃんと調べないとね。帰り薬局行くよ。」

「ばっ!バカなこと言うんじゃねぇよ!俺をなんだと思ってやがるんだ。ちゃんと保健体育の知識に基づいた手当てしたんだ。感謝しろっ!」

「保健体育って…、ねぇ〜?」



ニヤニヤとした笑みをはじめ君に向けて同意を求める総ちゃんだけど、隣に座るはじめ君は顔を真っ赤にして肩をすくめたまま俯くばかり。
髪から覗く耳までまっか。



「原田先生の保健体育なんてほぼ性教育だけじゃない」

「ぶっ!」

「ぐっ!」

「ごほっ!」



総ちゃんのストレートなセリフにあちこちからケーキの飛沫が舞う。



「ちょっ!…汚い〜!」

「きちゃない〜」



素早く自分のケーキのお皿と飲み物を避ける近藤さんと、楽しそうにばんざいをして近藤さんの言葉を復唱するたまちゃんに近藤先生はニコニコ笑顔。



「おいおい一体なんの話に発展してんだよ…、ったく…」



呆れながら永倉さんと平助くんが吹き出したものを台拭きで拭きはじめた土方さんの手と、むせて苦しそうなはじめ君の口から飛び出したものを拭いていた私の手がぶつかった。

けど、やいのやいのと盛り上がる中ではそんなの本当に何事もない些細なこと。

ぶつかった瞬間に私たちの視線もぶつかったけど、ただそれだけ。

そうしてみんなが盛り上がる中過ぎていく時間。
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