僕のおねえさん

□14.
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名前ちゃんが洗濯物をたたみ終わると時刻は夕方四時を過ぎ、僕たちは二人揃って家を出た。



「昔は毎年こどもの日にこうして近藤さんちに行ったよね〜」



毎年こどもの日になるとかならず近藤さんの奥さん、ツネさんからのお誘いの連絡が入る。
それは母さんが異国へ旅立って行った今年も例外に漏れず、名前ちゃんに至っては七年ぶりのお誘いとあって、連絡があったお昼過ぎからはそれはもう子供のように目を輝かせて集合時間が迫ってくるのをわくわくそわそわしながら過ごしていた。

こうして僕となら何の気も使わないで話せる名前ちゃん。
やっぱり男性恐怖症ってわけじゃないと思う。
……最初こそ本当に怯えたような眼差しを向けられたけれど…。

会社の男の人とも普通に接することができるっていうから、そんなに深刻になることもないと思うんだけど…。

名前ちゃんの昔を懐かしむ様子を見ながら通い慣れた道を歩いて目的地へと向かった。



「そういえばこないだ買い物してたら近藤さんの奥さんとバッタリ会ったんだけど、私が出てってる間にいろいろ変化があったんだね〜」



道場主の周斎先生が亡くなった事や近藤さんの愛娘、たまちゃん誕生の事を話す名前ちゃんは、きっとこれから行く近藤さんちの毎年恒例行事の変わりっぷりにびっくりするかもしれない。
なんてったって自称『男性恐怖症』だからね。

だから、名前ちゃんの驚きが少しでも軽くなるように情報を与えておかないと。



「昔は道場の生徒の子たちがたくさん集まっていろいろやったよね。近藤さん張り切っちゃってさ」

「そうそう!縁日みたいにね!」



キラキラ嬉しそうに笑う名前ちゃんは昔の光景がもうすぐ目の前に蘇るのが本当に楽しみで嬉しいって感じで、その笑顔を見てる僕までつられて目尻が下がってしまう。

だけど、本当のことを教えたらきっとこの表情も消えてしまうのかなとか思うと、ギリギリまで伝えるのやめようか…、と思う反面、

何も言わずに現実を見た時のその表情の変わり具合を見るのも、それはそれで面白いかな…。

なんて、そんな事を心の裏で思いつつ、名前ちゃんの笑顔に合わせて僕もニコニコと昔話に花を咲かせていると、やがて見えてくる試衞館道場の入り口の門。

きっとまだ準備時間だろうし、はじめ君くらいしか来てないかも…。

やっぱり教えておいた方がいいよね。




「ねぇ名前ちゃ…」

「総ちゃん、なんだかあんまり盛り上がってないみたいじゃない?」



僕が口を開くのと同時に、名前ちゃんが知ってる当時のような賑わいが聞こえてこない状況にいち早く気付いたのか、塀の向こうへ指を指して僕を見上げる名前ちゃん。



「小さい子少なくなってるの?」



名前ちゃんは、周斎先生が亡くなった事は知ってるけど、道場まで閉めてしまった事は知らないみたい…。



「小さい子っていうか…、周斎先生が亡くなった後、試衛館道場は閉鎖されちゃったんだよ」

「…えっ?」

「ちょうど二年前くらいかな…。僕が受験生の時にさ、周斎先生もぽっくり逝っちゃったし。」

「え…、え?でも近藤先生は?後継がなかったの?」

「うん、そうなんだ。周斎先生がまだ元気な頃から近藤さんは近藤さんでいろいろ忙しかったし、ちょうど近藤さんの夢が実現するって時に死んじゃったからね。どうしようもなかったんだよ。」

「……そ、…そうなんだ…。ていうか総ちゃん、そんなあっさり淡々と…。」




僕の語り口調に目を点にしながら、額から汗たらり状態の名前ちゃん。面白い顔。



「で、でも、道場閉めてもこうしてこどもの日の集まりするなんて、さすが近藤さん!町内の名物イベントだったもんね〜」

「あー、そのイベントももうやってないんだよね。」

「へ?」

「道場たたんじゃったから生徒もみんな解散。もともとそんなに生徒数も多くなかったしね」

「………。えと…、そ、それじゃあ…、今日はあれか!私の凱旋祝いってとこかな!なんちって!」

「名前ちゃん、そのキャラもうイタいからやめようね」



てへっとキメ顔作る名前ちゃんににっこり笑って言えば、「総ちゃんヒドイ!」とぶくっとフグみたいに膨れちゃって…。
ほんとこんなに面白いのに男性恐怖症だなんて嘘みたい。

そうこうしているうちに結局名前ちゃんには今日の集まりがどういうものなのか伝える間もなく僕たち二人は門をくぐった。



「こんにちわ、近藤さん」

「おぉおー!総司!それに名前ちゃんも!いやぁ〜!久しぶりだなぁ!」

「あ、お久しぶりです、近藤先生!」



道場の表でバーベキューコンロやテーブルセットの設置をしている近藤さんと、やっぱり一番乗りだったらしいはじめ君の姿があった。



「やぁはじめ君、久しぶり。」

「…………。総司、そちらの方は…?」



連休中、一度も部活に顔を出さなかった僕の挨拶に数秒間、ひと言物申したい顔つきのはじめ君だったけれど、僕の後ろにいる名前ちゃんに気が付くとチラッと一瞬だけ視線を向けて僕に訊ねてきた。



「ん?…あぁ、」



名前ちゃん、大丈夫だよね。はじめ君だし。



「ね、名前ちゃん、」



近藤さんと久しぶりの再会の挨拶をする名前ちゃんのひらひらの袖を引っ張って声をかける。



「ん?」

「名前ちゃん、紹介するね。この子、僕の同級生のはじめ君。斎藤まじめくん。」

「……斎藤一です。」

「で、この人は僕のおねえさん、沖田名前ちゃん。」

「あ、は!…はじめましてっ!沖田名前です!」



いきなり袖を引っ張られて、いきなり自己紹介させられた名前ちゃんは、最初はどもりはしたけれど僕が思うよりは随分普通に挨拶できたと思う。
まぁ、相手ははじめ君だしね。



「はじめ君、僕のおねえさん、ものすごく人見知りしちゃうけど仲良くしてあげてね。」



ね。と名前ちゃんにも笑顔を向けて言うと、目を丸くして僕を見上げて驚いた顔をしたけれど、すぐに気を取り直してはじめ君に「よろしくお願いします!」とぺっこりお辞儀をしていた。



「こう見えてはじめ君も人見知りするタイプだから、二人とも気が合うかもね」



僕の言葉に「え、そうなんだ!」と目を丸くしてはじめ君を見上げる名前ちゃんの視線に、「む…。」と概ね間違ってはいない事を言われ反論もできずにほんのり頬を紅らめるはじめ君。


これからどんどんメンツが増えてく訳だけど…。

この調子なら大丈夫だよね。
僕がしっかりサポートしてあげるからね。

でもちょっとだけ面白い名前ちゃんも見てみたい気持ちもあるんだけどね。
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