僕のおねえさん
□13.
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☆★総ちゃんのやり方★☆
「さっきのってさ」
「っ!」
「お友達…、じゃあ、ないよね?」
オムライスを二人向き合って食べているとふと手を止めた総ちゃんが言った。
その声のトーンから、あんまりご機嫌じゃない事が伺える。
総ちゃんの問いかけにピクッと反応した手がスプーンを持ったまま、そのままの形で固まったのを見て、「はぁー」と大きなため息が正面から飛んでくる。
「途中からしか見てなかったけどさ、名前ちゃんにこにこしてたから友達かと思ったんだけど、」
「………、」
「……友達じゃないなら、知り合い?」
ぐっと低められた声で訊ねてくる総ちゃんの顔が見れなくて、食べかけのオムライスに視線を落としたまま首を横に振って答えることしかできない。
なんだろう、この弟とは思えない威圧感…。
私が首を振って否定すると、一拍置いてまた正面から大きなため息をつく総ちゃん。
スプーンを持っている右手が下げられてお皿にカチャンと音を立てる。
「っ…はあぁぁぁ。名前ちゃんバカなの?」
「っ!?」
突然の呆れ声にびっくりしてつい総ちゃんの顔を見上げると、物凄い深いため息をついた総ちゃんは吐き出したため息と共に視線も下げていて、その表情はより一層不機嫌にみえる。
その視線をまぶたの動きだけでこちらへ向ける。
ジロっという効果音が聞こえるようなそんな目付きで。
「なに見ず知らずのただのナンパににこにこ愛想振りまいちゃってんのさ。バカじゃん」
「え…、だって…」
だってさっき総ちゃんが言った通りにしただけじゃん…。
私だって何の考えもなしにそんなことしないよ…。
むしろ、ものすごく努力して頑張った方なのに…。
「あんな風ににこにこ笑顔で返してたら、声かけた方だってイケるって勘違いするに決まってるでしょ。そんなこともわかんないの?」
コップの水をグイッと飲みほしてカツンと小気味のいい音を立ててテーブルに置いてまたため息をつく。
「………、」
「………。」
お互い黙ってしまって、オムライスを食べる手も止まってここのテーブルだけ周りの喧騒から孤立して浮いてるみたい…。
総ちゃんから言われた言葉は確かにその通りで、声をかけてきた男の子たちにとっては、相手をしてくれる女の子を見つければ喜ぶのは当然…。
私だって総ちゃんのやり方を知らなければ、あんなこと絶対しなかった。
いつも通り、声をかけられたってイヤだオーラを出して…、
からかわれて…、
それから、
怖い思いをして泣き寝入りするんだ…。
こんな思いするなら最初から声かけられたくないのに、
どれだけ世間から目を逸らして視線を合わせないようにしていても、そればっかりは向こうが勝手に声をかけてくるから、避けようにも避けようがない。
だから、声をかけられたらそれに対応できる術を知りたくて…。
さっき総ちゃんがしたようにうまく、軽く流せるような…、
そんな風うまく交わせられるなら私だってそうゆうふうにしたかったんだもん…。
「そんなのわかってるよ…。」
「……?」
しばらくの沈黙のあと、私が呟くと総ちゃんが私へ視線を寄越したのが見なくてもわかる。
私の視線は食べかけのオムライスに向けたまま。
「声かけてきた人たちに返事したらああやってさらに絡んでくるって事くらい、もうずぅっと前から知ってるよ!」
ついムキになって勢い吐き捨てるように総ちゃんへ言葉をぶつける。
そんな私に総ちゃんは驚いたように目を丸くする。
「初めは話しかけられて、私の返し方で相手を怒らせたりしないように気をつけて返事してたりしてた事もあったけど、…、そんな気使ったって結局最後に嫌な思いするのは私の方で、…だから声かけられたってなるべく相手にしないようにしてたのに…。」
「………。」
「話しかけられるのも嫌だから、私の方からは絶対目を合わせないように下向いて視界も狭めて目立たないようにしてるのに…!」
持ってたスプーンがカタカタとお皿に当たって小さな音を鳴らす。
「話しかけられないように…、それでも話しかけてこられて、…無視してもダメ、相槌打ってもダメ、総ちゃんがしてたように適当に愛想笑してバイバイなんて…、もっとダメじゃない…!じゃあ私はどうしたらいいのっ!?」
カタカタ震えるスプーンをギュッと握りしめて総ちゃんへ言い放つ。
こんなのただの八つ当たりじゃない…。
普通の兄弟と違ってこんなにも歳が離れてるっていうのに…、
なんてみっともなくて情けないおねえさんなんだろう。
二十代半ばの女が高校生相手に八つ当たりって…。
最低だ…。
絶対泣かない。
これで涙まで出てきちゃったら相当イタいよ…。
じわっと潤む目を見られないように視線を伏せる。
『どうしたらいいの』なんてそんなの答えを求めて言った言葉じゃないから。
だけど、そんな言い方は総ちゃんにしてみたらただの八つ当たりもいいとこで、迷惑以外の何ものでもない。
せっかく総ちゃんとのお出かけだったのに…。
せっかく総ちゃんとのランチだったのに…。
私のせいでこんなに嫌な思い。
私だけじゃなく、総ちゃんにまでやな思いさせちゃってる…。
結局私は何も変わる事なんてできないんだ。