僕のおねえさん
□12.
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☆★一緒★☆
「うわぁ、いっぱいあるねー」
名前ちゃんと一緒に色とりどり、キラキラ乱反射するたくさんのヘアアクセサリーが陳列されている台の上を顔を揃えて右から左へと覗き込む。
「こんなにいっぱいあるとどれがいいのかわからなくなるね」
困った顔で見上げる名前ちゃん。
そういえば名前ちゃんはあんまりキラキラしたものは身につけたりしない派なんだと改めて思う。
よく見れば、ピアスの穴も空いてないし、マニキュアとかもしていない…。
あんまりオシャレに興味がないのかな?
たくさんあるいろんな種類の髪飾り、
色も素材もモチーフもたくさんありすぎて今にも目を回してしまいそうな名前ちゃんの横顔につい笑いがこみ上げてしまう。
「気に入ったのあった?」
「ん…?ん〜…。正直どうゆうのがいいのかわかんないかも…。みんな派手…じゃない?」
確かに…。
目の前にあるのはどれも大振りなデザインでやたらゴテゴテキラキラ…。
名前ちゃんの趣味には合わないみたい。
「でも若い子達はこういうのでもさりげなくオシャレにつけてるんだよね。」
中でもとりわけ小ぶりなのを手にとって見つめる名前ちゃん。
「若い子って…、名前ちゃんだってまだまだ若いじゃない。」
「でもこの前は結婚適齢期って言ったよね?」
ジロっと口を尖らせて僕を睨みあげてるのか…、ただ拗ねてるようにしか見えないんだけど。
「あれ、そんなこと言ったっけ?ま、気にしない気にしない。ほら、これなんてどう?」
名前ちゃんのジト目をかわして適当に手にとったのを見せると「派手」と一言ぷいっとそっぽ向かれちゃった。
「もー、怒らないでよ。ね、名前ちゃんは普段どんな格好してるの?」
僕の記憶に残る一番最新の名前ちゃんは高校生の頃の制服姿しか思いつかない。
いかにも女子校生って感じの制服で、その当時の名前ちゃんは僕にとっては本当におねえさんって感じだったからそんな風には思わなかったけど、今思うとこんなに小柄なのにスタイルのいい名前ちゃんがあの制服を着て登校してたなんてはっきり言ってかなりの破壊力だったと思う。
そんな名前ちゃんな訳だけど、やっぱりどう記憶の中を探ってみても、アクセサリーとかつけてるところなんて思い当たらない。
大学生になってからなんて僕の記憶には全くないからもう名前ちゃんがどんな生活を送っていたのかさえも想像つかない。
「どんな格好って…、だいたいこんな感じだよ?」
両手に一つづつ、小さな黒いバレッタを持って左右を見比べていた視線を腰あたりに下ろす。
今日の名前ちゃんのお召し物はクリーム色のヒラヒラとしたトップスに下は細身のカーゴパンツのようなひざ下丈のパンツ。
そこにこういうお店の人だったらきっとあんな感じのブレスレットとかジャラジャラつけたり、大きなリングピアスなんかもつけちゃうんだろうな。
ショートヘアの名前ちゃんにもきっとよく似合うと思う。
「ふぅん…、で、その二つが気になるの?」
名前ちゃんの手元のそれを見る。
二つとも真っ黒でキラキラジャラジャラは付いてない、よくこの中からそんなの見つけたな〜って逆に感心するくらいの地味〜なやつ。
「なにそれ、お葬式用?」
あまりの地味さについ口が滑ってしまう。
「お…、お葬式用って!」
そんな僕の失言にまた拗ねて怒り出すかと思ったのに、意外にも名前ちゃんのツボにハマったらしくお腹を抱えて笑いが止まらないみたい。
「なんでよりにもよって真っ黒なの」
「だって…、今までただの事務員だったし、ついこういうの選んじゃうんだもん…」
なるほど…、事務員だから地味ね。
なにそれ。それってそういう定義なの?
「もっとさぁ、春だし柔らかい色とかいいんじゃない」
僕が手にとったのは柔らかい刺繍が施されたレースの土台に、僕らの瞳と同じ翡翠色のストーンが付いたパッチンどめ。
「こういうの、ほら。名前ちゃんの雰囲気にピッタリだよ」
楕円形のそれを名前ちゃんの右耳の上にパチンとつけてあげる。
名前ちゃんの形のいい耳がスッキリと見えてよく似合ってる。
「うん。可愛いよ。」
そのまま名前ちゃんの頭をぽんっと撫でて柔らかい髪をスルッと撫で下ろしてにっこり笑って言うと、目も口もまん丸くぽかんとして、途端に真っ赤に頬を染めて、目を逸らして「あ…、ありがと…」って照れちゃった。
わ、なにそのちょいデレ。
自分のおねえさんなのに、最近まで離れていた分、名前ちゃんの仕草や発言、表情のひとつひとつが新鮮で面白くて可愛い。
自分のおねえさんに可愛いなんてよくそんなこと言うなぁとも思うけれど、
今の名前ちゃんは昔と違って僕よりもずっと小さくて、いつもにこにこ穏やかに笑ってたイメージも、今はお腹を抱えて思いっきり楽しそうに笑ったりムッとむくれたり拗ねたりもする。
さっきみたいに照れた表情なんて…。
僕が記憶していた名前ちゃんは、きっと僕の理想というか…、名前ちゃんはこういう人なんだっていう固定観念が強すぎて、こんなにいろんな、生きた名前ちゃんの表情なんて思いつきもしなかった。
イメージの中の名前ちゃんよりも、ずっと身近に感じられる生身の名前ちゃん。
離れていた時間を取り戻すくらいもっといろいろおしゃべりをしよう。