僕のおねえさん
□11.
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☆★断ち切る★☆
昨日の夜、『お風呂に入るね〜』と言って二階に駆け上がって行った名前ちゃんは、それからしばらく経っても部屋から出てくる気配はなくて、
僕もそのあとの金曜ロードショーの続きを映すテレビの正面に座ってはいるけれど、もともと他にすることもなく、なんとなくつけていただけのものだったし、
ただ、なんとなく映し出される映像をぼんやりと見つめていた。
気がつけばいつの間にか金曜ロードショーも終わっていて、ここにいてもしょうがないからテレビを消して自分の部屋へと階段を上った。
僕の隣の部屋からは何の物音もしない…。
ただ、そこには確実に名前ちゃんがいるっていう気配は感じるものの、でも今の僕には名前ちゃんに声を掛けるなんてことはできなくて、名前ちゃんの部屋の扉を見てため息をついてから自分の部屋の扉を閉めた。
その後ヘッドフォンをつけてベッドでゴロゴロしながらスマホを弄っていると、ちょうど曲の合間に扉の閉まる音が聞こえたから、もしかしたらその時お風呂に入りに行ったのかもしれない。
そう思うとなんだか少しだけホッとして…、
だけど、それでもやっぱり名前ちゃんに会わせる顔なんてないから、そのままヘッドフォンからの大音量の音楽を聞き続けて、気が付いたら僕はお風呂にも入らずに翌朝を迎えていた。
翌朝を迎えていた
なんて言ってみたけど、本当はもうお昼に近い時間で太陽も随分高いところまで登っていた。
名前ちゃんは…?
キョロキョロと辺りを見回して見ても、どこにも名前ちゃんの気配は感じられず、出かけてしまったんだと何故か少しだけ気が緩んだ。
ダイニングテーブルの上にもキッチンのカウンターにも置き手紙らしいものはなくて、
土曜日だってのに、もしかしたら仕事かな?
なんて思ったけれど、ふと視界に入った窓の外の揺らめきに顔をあげる。
リビングから見える窓からの景色…。
庭の物干しには朝にでも洗濯したんだろう洗濯物がお昼近くの強い日差しに照らされて眩しい日差しを反射させていた。
名前ちゃんはまだここへきて数日しか経ってないけれど、仕事に行く前に洗濯をしてから行くなんて事はしないから、きっと今日は休みだと思う。
こんなにいい天気、
きっと本当だったら毎日でも部屋干しなんかより、こうして朝から陽射しの下できちんと干したいんだと思う。
気持ち良さそうに揺らめくその中には昨日名前ちゃんが着ていた淡いベージュのアンサンブルも他の洗濯物に紛れてそよ風に揺られていた。
七分袖のカーディガンの袖も、インナーの小さなヒラヒラがついた半袖ニットの首元も綺麗に汚れは落ちていて、あんなにシミだらけだった汚れが嘘みたい…。
洗濯しただけでこんなに跡形もなく綺麗に消えるなんて…。
名前ちゃんのキズも、こんな風に綺麗に消えたらいいのに…。
消せる方法があるのなら、僕はなんだってする…。
名前ちゃんのあんな悲しそうな顔…、
もう二度とさせたくない。
幼かった僕が自分を責めずに気楽に過ごせてこれたのは、名前ちゃんの優しさ。
名前ちゃんが僕を守ってくれたんだ…。
だったら、
僕が名前ちゃんの笑顔を守らないでどうするのさ。
僕にできないことなんて何もない。
みんなからそう言われて育てられてきたんだ。
名前ちゃんの笑顔は僕が守る…!
眩しい太陽のもと揺らめく洗濯物に誓った。