僕のおねえさん

□8.
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☆★ねこがとりもつ★☆QLOOKアクセス解析






「本当に大丈夫ですか?」



あの後、島田さんと一緒に戻った個室では、追加で頼んだ飲み物もすっかり飲み干され、私の注文分のピーチリキュールだけがグラスに汗をたっぷりかいた状態で私の帰りを待っていた。

げっそりとやつれて戻ってきた私を、みんながみんなお腹を壊してトイレから出られなかったんだと笑い半分、心配半分で笑顔で迎えてくれて、
『ご心配お掛けしまして申し訳ありません。迷子になっておりました。』
と頭を下げると、なぁんだとみんなに爆笑されて、
『迷子の仔猫ちゃんは無事犬のお巡りさんに保護されました』
なんて内勤スタッフの男の子が笑うもんだから、大鳥部長を始めみんなが大爆笑で、島田さんも眉毛を下げて苦笑い。

そんなみんなが笑う中、急いでピーチリキュールを飲み干して宴会は和やかに終了した。





島田さんは乗り換えの駅まで同じ電車に乗ってる間ずっと私の心配ばかりしていたけれど、別に酔っ払っているわけじゃないから大丈夫ですと言って、乗り換えの駅で降りた心配顔の島田さんを電車の中から手を降って見送った。

別に酔ってるわけじゃないからホントに平気なんです。
ただ、ホントに恐かっただけで…。

いつも普通に歩いている時も、極力人と目を合わせないようにしているけれど、それでも声をかけてくる人は度々いて、
だけど街中で声をかけてくるような人は私の態度を見ると、すぐに離れて行ってくれたのに…。


今日の男の子たちの迫りくるあの圧迫感と気味の悪い笑い顔が蘇ってきて気分が悪くなる。
思い出すだけで指先の感覚が痺れて冷たくなってくる…。



やっぱり男性恐怖症っていうのかな…、わたし……。



それに、助けてくれたあの二人にも、
すごく失礼な事しちゃったよね…。
普通だったら、知らない人たちが揉めてたって、よっぽどの事じゃなければみんな見ぬ振り知らぬ振りで通り過ぎて行っちゃうのに…。

せっかく勇気を出して助けてくれたのに…。

もう会うこともない二人のシルエットを思い浮かべて、ごめんなさいとありがとうを呟いた。







駅を出て、ふらつく膝に力を込めて自宅を目指す。
だけど、やっぱり少しだけ休んで行こうと近くの公園のベンチに座り込んで春の夜風に晒されて、少しだけ目を閉じた。



思い出すのはやめよう。
考えるのも。
解決できることならどうしたらいいかを考えればそれでいい。
あのいやらしい笑い顔を記憶から消さなくちゃ…!

だけど目を閉じていれば、どうしても暗闇に浮かぶあの笑い顔。
やっぱり人の顔なんて見るもんじゃない…。

忘れようとしてもどうしても瞼の裏に蘇っては消えてくれない気持ち悪い残像を消し去ろうと咄嗟に目を開くと、突然膝の上に軽い何かが乗っかった。



「っ!?」



びっくりして天を仰いでいた顔を膝へと向けると、そこには真っ白の小さな子ネコがお行儀良く綺麗な姿勢でおすわりして、まるで一言、『こんばんは』とでもいうようにニャアと鳴いて私を見上げた。



「え!?あ…、………ネコ……、」



突然膝の上に乗られたことも驚いたけど、こんなに綺麗なネコ、それもこんなに人になついているネコ、
どこかの飼い猫なんだろうかと思って見てみても、首輪もしていないし…、



「こんばんは、こんな夜に一人でお散歩?」



真正面から私を見上げるその子に話しかけるとニャアと返事をしてくれる。
子猫のまん丸の瞳が月明かりに照らされて、キラキラととても綺麗で神秘的で、その純粋な輝きを見つめているとさっきまで感じていた恐怖や指先の震えや冷たさが嘘のように感じられなくなるくらい…。
今では暖かいくらいの温もりを感じる…。



「どうしてだろうね…。あなたになら見つめられても全然平気なのにね…。」



左手をお行儀良く座るネコの腰に添えて、右手でそっと頭から背中へ撫でると、気持ち良さそうに目を細めて私の手の動きに合わせて頭を上にあげる。



「あなたみたいに一緒にいてあったかくなれる人がいてくれたらいいのにね…。」



子猫の気持ち良さそうな顔を見ていると自然に私の顔も緩んでいて、頭を撫でながらそんなことを呟くと、おすわりの状態からすっと立ち上がって前足を私の鎖骨の下について立ち、背筋を伸ばして私の顔を見つめてくる。



「えっ!?」



驚く私の顔を首を傾げてニャアとひとこと発して上目遣いで見つめてくる様子がかわいらしくて、なんだか慰めてくれてるようで、じんわりと嬉しくなる。



「ふふ、なに?慰めてくれてるんだ。えへ、ありがとお。元気出たよ」



二本足で立ち上がる健気な猫が、こんな通りすがりの私を気遣ってくれていることがものすごく嬉しくて、
嬉しいのに、顔もちゃんと笑顔でいるはずなのに涙は自然に滲んできてしまう。

そんな私の涙をまたニャアと言って優しく舐めてくれるこの子は、一体どれだけ優しいんだろう。


私もこの子と同じネコになれたらいいのにな……。


そんなことを思った瞬間、目の前にいた猫が突然膝の上を力強く蹴ったと思うと、首元に走る痛みに思わずハッとして声をあげてしまう。

目を開けた瞬間、目の前をたくさんの猫が駆け抜けて行く。
その中には、さっきまで私の膝の上にいた白い子猫の姿も紛れていて一斉に何かから逃げるように暗闇に姿を消してしまった。

いつの間にあんなにたくさんの猫が集まっていたんだろうと呆然とする中、じわじわと熱を持ってきた首筋に手を当てると、ヌルりとした感触…。


あ、子猫のツメが引っ掻いたんだ…。


漠然とそう思った瞬間、「おい!大丈夫かっ!?」と暗闇から駆け寄ってきたその声にびっくりした私は、ベンチに座ったままで硬直状態に陥ってしまった。
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