僕のおねえさん

□7.
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☆★恐怖のビアガーデン★☆QLOOKアクセス解析







大鳥部長が連れてきてくれたのは飲み放題食べ放題の、フロアによってコースが違うビア総合レストラン。

一階は屋内にワンフロアどどーんと広がるバーベキューレストランとテラスを挟んで屋外のお庭には噴水を囲んだビアガーデン。
屋内の二階に上がると一階のバーベキューレストランの吹き抜けをガラスで囲った渡り廊下にたくさんの個室と大ホールが使用できるしゃぶしゃぶレストラン。
渡り廊下の先には一階のビアガーデンと屋外の階段でつながっているスカイガーデン。
ここではいろんな国の地ビールが堪能できるらしい。

明日は土曜日ということもあって、すごい賑わいでビアガーデンとスカイガーデンはまだ春先なのにネクタイ外してボタンも緩めて腕まくりしたサラリーマンがごった返していて見るからにものすごい熱気。

私が最も行きたくない場所ランキング一位となっております…。
絶対あそこには行きたくない。紛れ込みたくない。

明日のことなんてお構い無しのはっちゃけテンションMAXな社会人や学生たちがごった返すビアガーデンを通り抜けて行く大鳥部長の後について、私たちは二階のしゃぶしゃぶレストランの個室にたどり着いた。





「こんなに賑わってるお店で、しかも今日みたいな週末に、よくすんなり個室確保してもらえましたね。」

「あぁ、僕結構ここ利用するから。さっき契約決まってすぐに予約いれておいたんだ」



内勤スタッフの男の子が感心したように言うと、さらりと何でもないように言う大鳥部長。
いくらよく利用するからって、こんなに混み合う時間帯に都合よく当日予約なんて取れるはずないと思う。
きっとなんかあるよ。
実はここの株いっぱい持ってるとかなんとかかんとか…。

でも、なにはともあれ、大鳥部長の株主優待のおかげでこのふすま一枚隔てた向こうの世界とは違う、落ち着いた空間で乾杯できることに感謝しなくっちゃね!

よぉ〜く冷えたビールで乾杯して、お店の中居さん風の店員さんがしゃぶしゃぶしてくれた柔らかいお肉をいただいて、
お腹もそこそこ満たされてくると、みんなのお箸のペースも徐々にゆっくりになってきて、店員さんも姿を消すとお酒を飲みながらのトークタイム。



「大鳥部長、私たちが出店するところって、どんなとこなんですか?」



やっぱり一番気になるのはそこんとこで、私の希望というか願望はやっぱりショッピングモールの出入り口なんかが理想なんだけどな〜。
ターゲットの客層はなんと言っても女性からで、そこからの口コミ効果を狙ってさらに認知度アップ!
みたいなのが狙いなんですけど……、

とかいいつつ、本音を言うとアレなんですけどね…。

やっぱり昼間のショッピングモールだと、そこまで男性客も多くないかな〜って思うわけですよ…。
そんな浅はかな願いも虚しく、大鳥部長からのお答えは私も島田さんも、もちろん内勤スタッフのみんなもびっくりの答え。



「私立の高校で、そこの理事長さんが是非にって。」



にっこりと笑う大鳥部長の笑顔は本当に可愛らしくて、この人一体幾つなんだろうって思うくらい。年齢不詳。



「学校…、ですか?」

「そう。まだ創立してそんなに経ってない共学高校だよ」



共学!女の子もいるんだ !
大鳥部長と島田さんの会話を聞きつつ、ほんの少しホッとする。



「でも、私たちのメインはカフェですよ?学校の敷地内にカフェをオープンしても、利益に繋がるのでしょうか?」



私の心配→安心ポイントとは全然違う、何とも島田さんらしい心配事を聞かされて何ともお恥ずかしい気分…。
しかも『島田さんらしい心配事』って…。
普通にみんなそこ心配するよね。しない方がおかしいよね。

そんなことを思いつつ肩をすくめて俯いてると、大鳥部長が島田さんの心配事に同調して頷く。



「そうだね、メインのカフェはどちらかというと、敷地を貸してくれる学校関係者より、その前の道を行く通行人にターゲットを当てるって感じかな。学校の敷地内って言っても、どうやら貸してくれる場所は正門を入ってすぐのスペースらしくて。そこまでのスペースだったら学校関係者以外の人も入って来ても大丈夫なんじゃないかなって見解らしいよ。」

「はぁなるほど、逆に言うと私たちが正門の常駐警備にもなり得るって事とも取れますね。」

「そうだね。常に人の目があるから、そこから不法侵入しようと思う人間なんてよっぽどじゃない限りいないからね。」

「敷地は学校内にはなるけど、客層としては、一般の通行人ってことになるんですね」



内勤スタッフも一緒になって話に参加する。



「まぁ、カフェに関して言えばそうなるね。」

「すごい気前のいい理事長さんなんですねぇ。そんな風に敷地を貸してくれるなんて。学校関係者って学校とは無関係の人間にはできるだけ近づかないで欲しいってイメージありましたけど…、実際そうでもないんですね。」



うんうん、ほんと。私もそう思う。
確かに学校の校門なら登下校以外の時間帯だったら学校関係者の出入りも少なくなってお店を広げてても邪魔にはならないだろうけど、
それでもやっぱり普通に考えたら学校関係者以外の人には入ってきて欲しくないって思うよね。
いつどんな人が不審者や犯罪者になるかわからない世の中だし…。
それなのに学校もPTAも契約に反対しなかったのかなぁ。
理事長ってそれだけ強い立場にあるってことなのかしら?

お鍋に浮いた灰汁をぼんやり掬いながらみんなの話に耳を傾けうんうん頷く。



「そうだね。でも実際のところはやっぱり、防犯だとかの面ではこちらも注意してやってかなきゃいけないからね。そういう意味ではこちらとしてもちょっと責任がかかってくるところでもあるよね。二人でやって行くわけだけど、その辺は大丈夫かなぁ?」


少しだけ申し訳なさそうに眉毛を下げて私と島田さんに視線を向けて、ただぼんやりと話に参加していた私は一瞬ドキッとしてしまって、返事をするのにワンテンポ遅れてしまう。

それに対して島田さんは大きな胸板をドンと叩いて、
「そういうことなら私にお任せください!」
と自信満々に答える。



「うんうん、やっぱり島田さんは逞しいなぁ!頼りになるよ!」

「なんなら島田さんの制服、警備員さんにしてもいいくらいじゃない?」



お酒の席とあってみんなで大笑い。
でもほんと、島田さんがいてくれるだけで、いろんな意味で安心するんだ。
一緒にチームを組むことになってまだ日は浅いけど、本当にこの人がパートナーで良かったって心からそう思う。

みんなの笑顔に紛れてこっそり「私も頼りにしてます」って言ったら「こちらこそ頼りにしてますよ」と笑ってくれた。
島田さん!ステキ!



「でも大鳥部長、さっき『カフェに関しては一般の人メイン』って言ってましたけど、それって…?」

「ん?あぁ、そうだね、そもそもなんで今回学校の理事長がこの契約を結ぼうとしたかというところに話は戻るんだけどね、実はこの学校、学食がないらしいんだよ」

「へぇー、いまどき学食がない高校って珍しいですねぇ」



グイッとグラスに残っていたビールに口をつけて話し出す大鳥部長に隣に座っていた事務の女性がすかさずビール瓶を持っておかわりを注ぐ。



「そうだよね。生徒は各自お弁当を持ってきたり、通学途中のコンビニで買ってきたり、校内の購買で販売されるパンを買ったりしてるらしくて、学食がないからってそこまで不便を感じたりはしてないらしいんどさ、どうも話を聞くと、学食みたいな施設があったらいいなって思ってるのは先生方らしいんだよね。」



なみなみと注がれたビールを少しあげてありがとうと手の動きだけで表現してにっこり微笑む。



「先生方も大半の先生は自宅からお弁当を持ってきたり、生徒と同じように通勤途中で調達してくる事が多いらしいんだけど、何名かの先生は、学校が創立された当初から教師の昼食を用意してくれるお弁当屋さんをずっと利用しているらしくてね。でも近々そのお弁当の配達もなくなってしまうらしいんだ。そこでこの際学食を校内に新たに増設するのがいいのか考えていたところにうちのチラシを見つけたらしくてね。」

「なるほど。学食なんて増設したらそれこそ資金繰りが大変だけどうちと契約すれば、うちの売り上げの割合とはいえ、それなりに学校側の収入にもなりますもんねぇ。理事長やるなぁ!」

「先生方のお弁当問題もクリアできますしね!」

「何だかお互いの求め合うタイミングが見事に一致したというか…、なんか運命的ですね!」



盛り上がる内勤スタッフたちもグイグイお酒を飲み干して、空いたグラスが目につくようになってきた。





「お酒、なくなってきましたね」

「あぁ、さっき注文した分、まだ来てないよね。呼び出しボタンもさっき押したんだけどなぁ」



やっぱり週末、しかも宴会シーズンとあってお店側も大忙しみたい。



「もう一回押してみる?」

「あ、私厨房覗いて声かけてきます。ついでにお手洗いもいってきます!」



立ち上がって挙手して言えば、「いょっ!頼むよ、名前ちゃん!」
「早く戻ってきてね!」と囃し立てられる。
みんな飲むとこうなるよね。
大きな掛け声を背に個室を後にした私も、いつもより陽気な気分でしゃぶしゃぶレストランの厨房を目指して渡り廊下をパタパタ歩き出した。
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