僕のおねえさん
□4.
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☆★運命の再会?★☆
「あら?あらららら?」
仕事帰りに家からほど近いスーパーで夕飯の買い物をしていると、ベビーカーを押したご婦人がすれ違いざまに私の顔を覗き込んでそんな声をかけてきた。
「あら〜!誰かに似てると思ったら!名前ちゃんじゃないの!久しぶりね〜!」
「え!?あ!近藤さん!?」
「ちょっと何年ぶり〜?名前ちゃん、全然変わらないじゃないの〜!」
声をかけてきたのは、町内でも元気で明るいリーダー的存在の奥様、近藤さん。
彼女はうちの母とも仲が良くて、昔からの家族ぐるみのお付き合い。
幼少期、体が弱くて病気がちだった総ちゃんは近藤家のお爺様がやっていた剣道教室で近藤さんの旦那様に鍛えてもらったりしていて、本当のお兄さんのように慕っていたくらいうちとのお付き合いはかなり濃い。
「お久しぶりです、近藤さん!相変わらずお元気そうで!…この子は…?」
ベビーカーに座ってクリクリのお目々で見つめてくる小さな女の子に視線を移して聞くと、
「あぁこの子ね!この子うちの子!たまちゃんでしゅ!」
そう言って腰を屈めてたまちゃんに顔を寄せてたまちゃんの右手をあげて紹介してくれる。
あまりのお肌の白さと見てるだけで吸い付きたくなるようなきめ細やかさにメロメロになってしまう。
近藤さんちはずっと子供ができないって聞いていたけどこんなに可愛い子が生まれたんだー!すご〜い!
「わぁー!かぁわいい〜!お肌すべすべ〜!お幾つなんですか?」
「にしゃいでっしゅ!」
またまたたまちゃんの右手をぐいっとあげて頬ずりする近藤さん。
う、羨ましい!
「う〜〜〜っ!かわいぃっ!皆さんお変わりありませんか?」
「ウンウン!もーみんな元気元気!…あ!そういえばおじいちゃん二年前に死んじゃってたわ!それ以外はみんな元気よ〜!」
「……あ、…あは、…それは…、ご愁傷さまでしたね…」
……う〜ん、相変わらず…。
「愁傷だなんて!おじいちゃんいくつまで生きてたと思う?89よ?それまでずっと道場で師範してピンピンコロリで逝ったんだから愁傷どころかもう拍手もんよ?立派立派!おつかれさまって送り出してやったわよ!」
「あ、あはは。すごい、そういう考え方もあるんですね…。」
「そうよ!ものは考えようよ!」
昔っからこの人はこんな風にポジティブで、どれだけ物言いがハッキリとしていても嫌味がなく町内の人気者。
総ちゃんが道場に入門することになったのもこの人のひとことがあったからだって母も言っていたっけ…。
人より体が弱くて丈夫になりたいのなら、人より強くなれるように頑張ろう!
人より弱いと自分でわかってる子は、人よりも強くなろうと努力するパワーを持ってる…って。
実際総ちゃんが剣道を始めてから私が家を出るまでの三年間、頑張って通っている様子を見てきたけれど、ほんとに日に日に風邪をひくことも熱を出すことも減ってきていて、その効果は絶大なものだとすごく感心していた。
「それよりいつ戻ってきたのよ!」
「あ、昨日です。」
「あらほんと〜?そういえばミキさん突然勝次郎さんとシンガポール暮らし始めるなんて言ってたものねぇ。もしかしてもう出発しちゃった?」
「はい…、一昨日…」
「あっはは!あの人も大概弾丸よねぇ!」
そんな風にカラッと笑う近藤さんと並んでカートを押しながら買い物を続ける。
「ミキさんにね、シンガポールの話を聞いた時、何かの時は総司君をよろしくね、なんて言われて、お夕飯とか誘いに行った方がいいのかしらって思ってたんだけど…、名前ちゃんが帰ってきてくれたんなら何も心配要らないわよね!」
母の無理な要求にも嫌な顔せずに応えてくれようとした近藤さんの気持ちがあったかくて私もつられて笑顔になる。
「ありがとうございます!私もやっぱり実家は落ち着きますし、当分はもう出て行く予定もないので大丈夫です!」
任せてくださいとばかりに自信満々に言い切ると近藤さんは目をキョトンと丸くさせてまたあっははと豪快に笑い出した。
「あはは!名前ちゃん、当分は出て行く予定もないだなんて!年頃の娘がよく言うわよ!そんな予定いつ変わるかなんてわかったもんじゃない!」
「え…?」
「全く…、ミキさんも勝二郎さんも、いくらしばらく会ってなかったからって、こんな可愛らしい娘とあの息子を残してシンガポールなんてよく行っちゃうわよね。私だったらたまちゃん残してどこか行くなんて考えられない!ねー!たまちゃん!スリスリちゅっちゅだもんねっ!」
待望の赤ちゃんとあって近藤さんのメロメロっぷりはものすごい。
確かにたまちゃんかわゆい…。
なんておいしそう。
たまちゃん…。
「で?昨日帰って来たばかりなんでしょ?これからお仕事探すの?」
「え?あ、いえ。仕事は前から務めてた会社で変わらないんですけど、…ちょっと部署というか業務内容が変わっちゃって…。」
「あらあら、なんだか浮かない感じねぇ」
私の表情が一変したのを心配そうに覗く近藤さんに、情けないけど私は泣きつくように事情を説明した。