僕のおねえさん

□3.
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☆★私のパートナー★☆QLOOKアクセス解析






「名前さん、一息つきませんか?」



まさに今、ふぅーっと一息ついたタイミングで横から差し出されたのは、二種類の缶コーヒー。



「あ、ありがとうございます」

「名前さんのお好みがわからなかったので…。お好きな方をどうぞ」



甘いあま〜いパッケージデザインのキャラメルカプチーノと大人の雰囲気漂うエスプレッソ。

両手に一本づつ持ってにっこり笑うのは、今回のプロジェクトで召集され、同じチームを組むことになった島田さん。
気は優しくて力持ちな彼は、とっても頼れるパートナー。


差し出された二つを見てクスッと笑ってしまったのはナイショ。
だって、二種類のフレーバーの違いに、きっと『名前さんは甘いのが好きかな?いやでも苦手だったら…?』なんて自販機の前で悩んでたのかなと思うと、その気遣いが嬉しくて…。

それによく見ると微妙にキャラメルカプチーノの方が若干引いてるっぽい…。



「それじゃあお言葉に甘えて、いただきます!」



私が選んだのはエスプレッソ。

島田さんが甘いもの大好きなのは初対面の時に確認済みだからね。



「ちょうど喉渇いたなぁって思ったところだったので嬉しいです!」

「それはいいタイミングでしたね。そう言ってもらえると私も嬉しいです」



ほくほく笑顔でキャラメルカプチーノを嬉しそうに飲み始める島田さんの横に座って私もプルタブを開ける。



「はぁ…。それにしても…、このプロジェクト、うまくいきますかねぇ…」



ついつい先行きが不安で愚痴めいた言葉が出てしまう。
そんな私に「そうですねぇ…」なんて同調しながらも笑って励ましてくれる島田さんはほんとに見た目も中身もすっごく頼り甲斐がある。



「確かに大鳥部長から召集をかけられた時には驚きましたが…、まぁでも、やってやれないことでもないでしょう!」

「そりゃぁ…、島田さんは営業職だったから、人当たりもいいですし、スイーツの腕前もすごいからこの内容はピッタリ天職かもしれないですけど…、私なんてほんとに目立たずおとなしく静かに地味〜に事務職してたはずなのに…、どうしてこんな事に…」



島田さんの、周囲までほこほこ気分にさせてしまうような素敵な笑顔とは反対に、私の表情は嘆き悲しみ、見上げた青空が眩しくて目に染みる。



「大鳥部長に見初められたんですから仕方ないですよ」

「……見初められたって、またそんなうまいこと言いますね…」



実際、大鳥部長に目をつけられて、ここまでくるのはほんとに早かった。









午前の就業時間もあと少しでお昼休憩だ!という間際に、『お昼からの会議で使う資料を最終チェックしてすぐに配布できるようにしておいて』と言われた私は、誰もいなくなった事務所でコツコツ作業を進め、やっとご飯だとお弁当を広げて一口食べてホッとしたところ、
頭上から聞こえた男性の声に反応してスプーンをくわえたまま真上を見上げたところに居たのが事の発端、大鳥部長。

「これみんなキミの手作り?すごいねぇ!」

私の真後ろに立つ大鳥部長は右手をデスクについて、左手で私のお弁当、
スープジャーを手に取りしみじみと中身を見てニコリと笑った。



「オフィスでスープランチか…。これポトフだよね。他にも作って持ってきたりしてるの?」



大鳥部長が言う「他にも」の意味がよくわからなかったからスプーンを持った右手はそのままに、はてなマークを浮かべつつ、左手に持っていたおにぎりをちょっとあげて見せると一瞬可愛らしい目をキョトンとさせた大鳥部長は盛大に笑いだした。



「あっはは!そうじゃないよ!これ、スープの事!他にもいろんなスープができそうだよね?」



そう言ってスープジャーを元の場所に戻して体を離してくれたから、私もスプーンを口から離して返事をしながら椅子を大鳥部長の方へ回転させる。



「そうですね、いろいろできますよ。保温性に優れてますし、今日みたいな寒い日にはやっぱりあったかいスープがあると嬉しいですよね。ちょっと持ってくるのに重たいのがアレですけど、わざわざ外に寒い中食べに行ったりするのはどうも苦手で…」



なんて話してる私を他所に腕を組んだ右手をあごに当てながら一点を見つめる大鳥部長。



「……?」



その視線の先を辿ってみると、そこには業務資料に紛れてほんの少し姿を表す資格取得の教材…。



「あっ!あわわ…!あのいやこれはその…!」



慌てて隠そうと思って手を伸ばしたけれどそれも虚しく、大鳥部長の素早い動きには勝てずにあっという間に取り上げられてしまった。



「………。」

「………、、、」

「……………。」





うわぁ…、どうしよう…。すごい沈黙…。

あごに手を当てたまま、じっと教材の表紙を見つめる大鳥部長の顔を見上げることなんてできず、ただスプーンを膝の上で握りしめることしかできない私…。



「キミはコーヒーにも興味があるの?」



やっと沈黙が破られたかと思ったそのセリフにいささか「?…にも???」と引っ掛かりを感じたけれども、教材を見られたからには「はい」としか答えようがなくて、そう答えると、



「なるほど!」



にっこり笑って教材を元の場所に戻してまた腕を組みあごに手を当てる。



「………。」

「………、」

「………、いぃねぇ〜!」



突然満面の笑みで何かを思いついた大鳥部長はまるで少年のように瞳をキラキラ輝かせて私の名前を訊ねてくる。



「キミ、名前は?」



いきなり名前を尋ねられて驚く私のネームプレートをじっと見つめてニコッと微笑むとその表記された私の名前を笑いながら口に出して読み上げる。



「沖田名前さん」



名乗る前に名前を言われておくちアングリな私に背を向けて片手をあげる大鳥部長は



「ありがとう、いい勉強になったよ」



と言って事務所の扉を開けて出て行った。







思えばあの日、
本社の大鳥部長に話しかけられたのはあの日が初めてで、

初対面の男性に、
しかもあの近さで、よく取り乱したりしないで対応できたなと自分に感心し、
あの人は一体誰だったんだろうと疑問に思ったけれども、すぐに気にすることもなく数日を過ごし、

次に彼に会ったのは、全然畑違いの広報企画部長に連れられて来た本社の大会議室で、
なんとも私には場違いな空間での再会となったのでした。
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